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奏鳴曲(ソナタ) 1 side奏多

「凪ーっ!大丈夫なの!?」 一週間ぶりの、4人揃ってのスタジオ練。 凪の顔を見るなり、賢吾が大声で叫んで、抱きついた。 「ひどい風邪引いたんだって?大丈夫!?ちょっと痩せたんじゃない?」 ペタペタと無遠慮に凪に触る賢吾に、イラッとして。 つい、その身体を引き剥がしそうになるのを、必死に堪える。 「う、うん。もう大丈夫」 「ホント?なんか、奏多も風邪引いちゃったらしくてさ、変な風邪が流行ってるのかなぁ?」 「ふーん…奏多が風邪ねぇ…いつも、誰よりも丈夫なのにねぇ…?」 賢吾の言葉に、夏生が意味ありげな冷ややかな視線をチラリと俺に向けて。 反射的に目を逸らした。 「え?風邪じゃなかったの?」 「奏多がそう言ったなら、そうなんじゃない?それより、あれ、見せたら?」 「あ、そうだった!」 不思議そうな賢吾から意図的に話をずらした夏生が促すと。 賢吾はパンと手を叩いて、カバンの中からタブレットを取り出す。 「この間、4人で合わせたやつあったでしょ?あれを試しにうちのチャンネルに上げてみたら…すんごい再生回数なんだよ!」 「そうなん?」 「うん!ほら、これ見て!」 興奮気味に言って開いたのは、バンドの宣伝用に作った動画サイトのチャンネル。 映像系の専門学校に通ってる賢吾が、スタジオ練やライブの映像を加工して上げてるものなんだけど。 「マジかよ…」 最新の動画には、いつもの3倍近くの再生回数が表示されていた。 「まだ凪をお披露目してないから、シークレットキャラみたいな感じで、敢えて見切った映像で流してみたんだけど、それがウケたみたいでさ。コメント欄、キーボードが誰なのかってコメントで溢れてるよー」 そう言われて見てみれば、確かにコメントに上がってるのはキーボードのことばかりで。 中には、肩まである髪の隙間から覗く首のチョーカーを目敏く見つけて、Ωじゃないかって書いてあるものもある。 「みんな、凪に興味津々みたい」 「ええぇ…」 嬉しそうな賢吾とは対象的に、凪は少し迷惑顔。 注目されるのが嫌なのかと、一瞬ドキリとしたけど、今までコンクールとかで散々注目浴びるのには慣れてるはずだから、たぶん面倒くさいだけだろうなと自分の中で当たりをつけると。 「めんどくさいな…」 思ったことと全く同じセリフを凪が吐いて。 つい、笑いが漏れてしまった。 「何笑ってんの?」 「…なんでもない」 「でさ!これを圭人さんに見せたら、来月のクリスマスライブ、凪のお披露目を兼ねて5曲くらいやるか?って言ってくれた!」 「マジで!?」 横目で睨まれて身を竦めた俺は、賢吾の言葉に思わず大声で反応する。 このスタジオのオーナーで、業界ではまぁまぁ名の知れたギタリストの圭人さんは、若手発掘のライブを定期的に開催してて、俺らもいつも1曲か2曲そこに参加させてもらってるんだけど。 5曲もなんて、今までなかったことだ。 「うん。最近、俺らのバンド人気出てきてるし、それくらい任せるからやってみろって」 「よっしゃー!」 ギターの師匠である圭人さんにそう言ってもらえたことが嬉しくて。  つい、横に立ってた凪を、力一杯抱き締めていた。 「ちょっ…奏多!?」 「やってやろうぜ、凪!おまえと俺の音楽、ぶちかましてやろうぜ!」 「く、苦し…」 力加減も出来ずに、ぎゅうぎゅう抱き締めていると。 「もう…子どもみたい…」 凪は笑って、宥めるように俺の背中をぽんぽんと叩いた。 「わぉ…大胆…」 「奏多って、あんな奴だったんだ…」

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