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奏鳴曲 2 side奏多
「5曲かぁ…一応レパートリーあるけど、もう1曲作るかな…」
「え?間に合うの?ライブ、来月でしょ?」
「曲さえ作れれば、後はなんとかなるだろ。賢吾以外は」
「…鬼だね、奏多」
テンション上がった俺たちは、その日は夜遅くまで練習して。
いつものように凪を送りながら、俺はライブで使う曲を何にするか考えていた。
「曲って、いつもどうやって作るの?」
わざとゆっくり歩く俺の隣を、急かすことなく同じ速度で歩く凪が、訊ねる。
「んー…だいたいのメロディーラインはギターで作って、後はパソコンに落とし込んでドラムとベースとキーボードパートを構築してくって感じ。…あ!今度はツインギターの曲にするかな。せっかく凪がギター弾けるようになってきたし」
「へー、面白そう。今度見せてよ」
「いいよ、もちろん。なんだったら、凪も作曲してみる?」
「ええ?無理じゃない?」
「出来るよ。凪は音楽理論を理解できてるんだしさ。基礎がわかってれば、簡単だよ」
「そうかなぁ?」
どこか楽しそうに歩いていた凪が、その瞬間ピタリと足を止めた。
「…凪?」
それに気付かずに数歩先まで歩いて。
隣にいないのに気がついて振り向くと、凪はひどく硬い表情で俺を睨むように見ている。
「え…どうした?」
なんで急にそんな態度なのかと焦った時。
後ろから、今まで感じたことのない、ものすごいプレッシャーを感じた。
「なに…?」
また振り向くと、もう目の前に見えてた凪のマンションの前に、黒いフェラーリが止まってて。
そこから、男が降りてくる。
高そうなスーツを着たすらりと背の高い男は、彫刻みたいに整った顔をしてて。
見ただけで、αだとわかるほどの圧倒的なオーラを纏っていた。
同じαの俺が思わず足が竦むほどの、オーラを。
なんだ、こいつ…
男は無表情のまま、早足でこっちに歩いてきて。
俺を目の端にも入れずに横をすり抜けると、凪の前に立つ。
「こんな時間まで、どこをウロウロしてたんだ」
明らかに苛立った声でそう言った男を、凪はきつく睨みつけて。
「…俺がどこでなにしてようと、櫂には関係ないだろ」
ふいっと目を逸らしてその横をすり抜けようとした。
「凪っ!」
その腕を男が掴む。
瞬間、凪の顔が微かに歪んで。
考える間もなく、身体が動いた。
「なにやってんだよ!」
凪の腕を掴んでる手を払い落とすと、男は初めて俺の存在に気がついたように目を見開いて。
それから、憎しみにも見える苛烈な怒りをその瞳に宿して、俺を睨む。
「なんだ?おまえ…」
男は、その瞳のまま、凪を睨みつけた。
「凪…まさか、このαと一緒にいたんじゃないだろうな…」
地を這うような低い声は、辺りの空気を凍らせるように冷たくて。
無意識に、身体が震える。
「櫂には関係ないって言ってるだろ。いちいち、口煩く言わないでよ」
凪が、はぁっと大きな溜め息を吐いて、その場を去ろうとすると。
男は更に怒りを増幅させて、凪のシャツの胸の辺りを掴み、力任せに自分の方へと引き寄せた。
「っ…!」
「おまえはっ!こっちからの連絡も無視して、なにやってんだ!」
「やめろっ!」
頭一つ分大きい男に胸倉を掴まれて、苦しそうに顔を歪めた凪の足は、今にも宙に浮きそうで。
慌てて間に身体をねじ込んで、凪を男から奪い返す。
「なにやってんだよっ!」
けほっと小さく咳き込んだ凪を腕の中に囲いながら、怒鳴ると。
「おまえこそ、なんだ!関係ない奴は引っ込んでろ!」
男は、更に怒気を強めた。
男が放つ怒りで、ビリビリと空気が震える音がする。
その凄まじいプレッシャーに負けまいと、腹に力を入れて睨み返していると。
「櫂っ!もうやめてっ!」
バタンと音がして、止めてあったフェラーリの中から、もう一人の男が慌てて降りてきた。
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