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奏鳴曲 3 side奏多
その人の顔を見て、どこかで見たことあるような…と一瞬考えたら。
「…真白は、車の中にいろって言ったろ」
男が、その答えをくれる。
ああ…
前に凪と一緒にいた人か
だとしたら
この目の前のものすごい圧のαって……
凪の弟って奴!?
「無理だよ!だって、ちゃんと冷静に話するって約束したのに、出来てないじゃん!」
「…俺は、冷静だ」
「嘘ばっか!自分でもわかってるんでしょ!?」
男の意識が真白さんに向いて、辺り一面を覆っていた怒気がふっと和らぐと。
凪がもぞりと動いて、俺の肩を押して腕の中から出ていく。
「…大丈夫。ごめん」
「あぁ…」
「だから、違うって言ってんでしょ!櫂の分からず屋っ!」
「分からず屋って、なんだよ…?」
言い合い…というか、なんだか真白さんに男が怒られてる構図になってきた二人を後目に、俺は皺くちゃになった凪のシャツをそっと直してやった。
「…あれ、おまえの弟?」
「うん。ごめん」
「いや…謝ることない、けど…」
「だからっ!彼は凪くんの友だちなんだってば!名前は…えーっと…?」
どうやってこの場から凪を連れ出そうかと思案し始めたところで、真白さんの声が耳に飛び込んできて。
振り向くと、俺に向けて可愛らしく小首を傾げてる。
「…一之宮奏多です…」
「そうそう!奏多くん!」
「…真白、こいつのこと本当に知ってんのか…?」
「知ってるってば!会ったことあるもん!」
「あっそ…」
仕方なく自ら名を名乗ると、弟くんは呆れた顔で溜め息を吐いたけど。
あんなに撒き散らしてた怒りは、すっかり形を潜めてる。
すげー…
真白さん、猛獣使いみてぇ…
「まぁ、真白がそう言うんなら信じてもいいけど…けど、友だちだからってこんな時間まで凪を連れ回すなんて非常識じゃないか?」
「何トボけたこと言ってんの。双子なんだから、凪くんだってもう23歳なんだよ?別に全然おかしくないし。櫂だって、よく夜中まで飲んで朝帰りするじゃん」
「…俺のは仕事だ。それに、凪はΩなんだから…」
「…Ωだから?なに?」
「…なんでもない」
真白さんの声が、Ωってワードにワントーン下がって、弟くんはバツの悪そうに言葉を誤魔化した。
っていうか
忘れてたけど凪って俺より3つ上なんだよな…
なんかこう
言葉で聞くとズシンとくるな…
「…もういい?俺、疲れてるからさっさと部屋に戻りたいんだけど」
弟くんと真白さんの会話に、なんとなく口を挟めないでいると、凪が深く息を吐きながら歩きだそうとする。
「待てって。まだ話は終わってない」
「しつこいな…奏多は本当に友だちだし、今度からは遅くまで出歩かないようにする。これでいいんでしょ?」
また腕を掴んだ弟くんを、めんどくさそうに見上げた凪は。
「…じゃあ、先週は?なにやってた?まさか、ママの命日を忘れたわけじゃないよな?」
また怒りを滲ませた弟くんの言葉に、表情を凍りつかせた。
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