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奏鳴曲 17 side凪
昼頃に戻る、なんて言ったけど。
なんだかそわそわして、結局翌日の朝ごはんを食べてすぐ、マンションへ戻ってきてしまった。
それでも落ち着かなくて、適当にピアノを弾いてると、スマホの通知音が鳴る。
慌てて画面を見ると、奏多からで。
【まだ、戻ってない?】
その文字を見た瞬間、考えるより早く指が動いた。
【もう帰ってきてるよ】
やば…
これってなんか
俺が奏多から連絡来るの待ってたみたいじゃん…
そう気付いたのは、もう送ってしまった後で。
恥ずかしさに、慌ててメッセージを取り消そうとしたら、一瞬早く奏多から返信が届く。
【じゃあ、これから行ってもいい?なんか、早く会いたくて待ちきれなかった】
そのストレート過ぎる文面に、顔が一気に熱くなった。
「あいつ…ホント、恥ずかしいやつ…」
自分のことは棚上げしてぼやきつつ、オッケーのスタンプを送ると。
程なくして、インターフォンが鳴る。
「えっ!?」
驚いてモニターを見たら、なんか照れ臭そうな顔してる奏多がいた。
「ちょっと…早すぎない?」
『ごめん!なんか、気付いたら着いてた!』
「なんだよ、それ…怖っ」
『怖ってなんだよ!…って言いたいけど、自分でも自分が怖いわ…』
身震いする振りに、思わず笑いが込み上げる。
『ってか、早く入れて。さっきから、変な目でジロジロ見られてるんだけど…』
「だって、不審者じゃん。立派なストーカー」
『違うしっ!』
奏多の反応が面白くて、ついつい誂ってしまうけど。
さすがにちょっと可哀想になってきたから、俺はエントランスのロックを解除してやった。
慌てた様子で画面から消えたのを見届けて、玄関へと移動する。
バタバタと廊下を近付いてくる足音が聞こえて。
チャイムが鳴る前にこっちからドアを開けてやった。
「うわぁっ!」
予想してた通りのびっくりした顔に、なんか嬉しくなる。
「いらっしゃい」
そう言って、ドアを大きく開いてやると、奏多はなぜか呆けたようにぼーっと俺を見つめて。
それから、ほんのりと顔を赤らめた。
「…なに?」
「い、いや、なんでもっ!お邪魔しますっ!」
ドタドタと慌てた素振りで入ってきた奏多は、背中にギターケースを背負って、両肩にはそれぞれトートバッグとボストンバッグをぶら下げた、まるで旅行にでも行くような大荷物で。
「…なに、その荷物。闇金から夜逃げでもしてきた?」
思わず、眉を顰める。
「違うわっ!闇金から夜逃げって、いつの時代の話だよ!」
「じゃあなんなの」
「こっちはパソコン。で、こっちはフライパンと肉じゃがの材料が入ってんの!肉じゃが作るって言っても、おまえんち調理器具なんもないだろ」
「あ…そっか。忘れてたわ」
そう答えると、奏多はがっくりと肩を落とした。
「おまえさ…もうちょっと、ちゃんと生活しろ…?」
「してるよ。失礼な」
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