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奏鳴曲 21 side凪
ライブ本番まであと2週間。
奏多が作った新曲もほとんど完成といってもいいくらいまで出来上がり、練習にもますます熱が入ってた。
俺は結局、5曲ともキーボードでの参加になった。
まぁ、仕方ない
今の俺のギターは初心者に毛が生えたくらいのレベルだし
3人とはレベルが違いすぎる
もうちょっと練習しないとな…
ああでも、もうすぐ試験かぁ…
成績落ちると櫂に何言われるかわかんないし
そっちもやんないと…
っていうか
あいつなんなの?
パパに言われるならまだしも
なんであいつに偉そうに言われなきゃなんないの?
あー、腹立つ!
いちいちうっさいんだよ、ボケ!
おまえは俺の保護者か!
「凪、なんかあった?音、荒れてるけど?」
心の中で毒づきながらキーボードを弾いてると、夏生に顔を覗き込まれた。
「…なんでもない。ごめん」
「いや、別に休憩中なんだから、いいんだけど…珍しいね、凪がそんなに感情顕にして弾いてるの」
そんなに気分が漏れちゃってたかと、少し恥ずかしくなってると。
夏生は笑いながら、俺にペットボトルのお茶を手渡してくれる。
「ごめん。もうやんないから」
「だから、謝ることじゃないって。むしろ、俺は嬉しいけど?凪が、やっと人間になってきた気がして」
「ええ?なにそれ」
「だって、入学したての凪、ホントにアンドロイドみたいだったもん。楽譜通り正確に弾くだけの、アンドロイド」
「そうだっけ…?」
お茶を一口飲みながら、当時のことを思い出してみた。
あの頃は…
那智さんのお店で弾かせてもらったおかげで
ピアノを弾くことだけは出来るようになってたけど
まだ俺の世界はモノクロのままだった
櫂に無理やり音大に入れられて
でもやる気もなくてただ楽譜通りに弾いてるだけだった、かも…
「…確かにそうかも」
「あはっ…自覚あった」
「いや、今自覚した」
「あははっ、今なんだ」
声を立てて笑う夏生は、なんだか本当に嬉しそう。
「じゃあ…今、楽しい?」
「え?」
「俺たちと音楽やるの、楽しい?」
笑顔のまま、訊ねられて。
「…うん。すごく楽しいよ」
俺は素直に頷いた。
「そっか。じゃあ、俺が凪に奏多を会わせたの、間違いじゃなかったね」
「間違いって…?」
「本当はさ、ちょっとだけ後悔してたんだ。あの時、奏多の伴奏頼んだこと。凪しか頼める人いなかったから仕方なかったけど、凪、あんまり人と関わりたくなさそうだったからさ。あいつ、基本はいい奴なんだけど、結構強引なとこあるでしょ?αだし…。だから、奏多のせいで凪がもっと頑なになったらどうしようって少し心配だった」
そんなこと、心配してくれてたんだ…
「でも、今の凪すごくいい顔してるし、なんか生き生きしてるように見えるし。だから、俺たちとやるの楽しいなって思ってくれてたらいいなって思ってた。俺も、凪と一緒にやれて楽しいから」
そう言った夏生は、すごく優しい目をしていて。
俺はずっと独りだと思ってた
この先も独りでいいし
独りで生きていくのが当然だと
勝手に自分で殻を作って閉じこもっていた
でも
顔を上げてよく周りを見てみれば
俺のことをちゃんと見てる人がいる
俺のことを自分のことのように心配してくれる人がいる
それが今
すごく嬉しいと思う
ねぇ…
俺、ようやく少しだけ、あなたの望む人生を歩み出したのかな…?
「…ありがと、夏生」
心からの感謝を述べると、小さく頷いた。
「じゃあ…ようやく人間になった凪に、プレゼント」
そうして、俺にポケットから取り出したものを差し出す。
それは、ライブの招待チケットだった。
「今なら、誘える人いるんじゃない?」
まるで心を見透かしたような言葉が、心の一番奥にちくりと棘のように刺さる。
浮かんだのは、パパと櫂の顔。
パパは今からじゃもう無理だけど、櫂なら来れるはず。
でも…
「…一応、もらっとく」
俺はチケットを受け取ると、すぐにポケットの中に押し込んだ。
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