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奏鳴曲 27 side凪
5曲、全力で演奏して。
ステージを降りて、控室に戻ってきても、なんだか気持ちがずっとふわふわしたままで。
「なぎー、大丈夫かー?」
ぼーっと椅子に座ってたら、目の前で奏多に笑いながら手を振られて、ようやく我に返った。
「あ…うん」
「楽しかったか?」
そう訊ねる奏多は、なぜか嬉しそうで。
「…うん。すごく、楽しかった」
真っ直ぐな奏多の眼差しの前に嘘なんか吐けなくて、素直に頷くと、ますます笑みを深める。
「俺もーっ!めちゃくちゃ楽しかったっ!」
「緊張もしたけど、なんかすごい興奮したよな。俺、今までで一番いい演奏だったと思う」
「俺も俺もっ!」
賢吾も夏生も、子どもみたいにはしゃいでて。
「なんかさ…まだ見ぬ世界に飛び込んじゃった、って感じ?」
賢吾がドヤ顔で放った言葉に。
「…わかる」
思わず、頷いた。
「今日の景色、見たことのない世界だった」
熱くて
眩しくて
キラキラしてて
ワクワクして
ドキドキして
叫びたくなった
音楽が大好きだって
「うん、俺も」
「俺もっ!」
夏生と賢吾も、頷いてくれて。
「…全部、凪のおかけだ」
奏多が、優しい眼差しで俺を見つめる。
「え…?」
「凪がいたから。凪が俺たちと一緒にバンドやってくれたから、見られた世界だ」
「そんなの…」
「確かに!前のキーボードの奴じゃ、無理だったかもー」
「だね。凪と奏多と賢吾と俺と。この4人じゃなきゃ見られなかった世界だね」
3人の真っ直ぐで、嘘偽りなんか微塵も感じられない言葉に。
胸が熱くなった。
いつの頃からか
俺にとって音楽は戦いだった
どんなに技術を磨いても
どんなに感情豊かに表現しても
所詮はΩだと
決して正当に評価されることはなかったから
Ωはαやβより全てに於いて劣っている種
だから少しでも自分達より秀でているものは許せない
誰もが俺に向ける悪意との孤独な戦いだった
パパと櫂は俺を甘やかしてくれたけど
それは俺がΩという弱くて守るべき存在だから
Ωであること
何をしても
何を望んでも
それが俺の全てだった
でも
この3人は違う
Ωとか関係なく
俺を一人の人間として扱ってくれる
対等な人間として
同じ音楽を感じ
同じ音楽を奏で
同じ世界を見つめてくれる
俺は独りじゃないんだって
3人の笑顔がそう言ってくれる
そのことが
こんなにも嬉しいことだなんて…
「凪…?」
堪える間もなく、涙が零れ落ちた。
「ど、どうしたの!?俺たち、なんか嫌なこと言った!?」
賢吾が慌てて、俺の背中に手を当てる。
「ううん…違う…そうじゃ、なくて…」
その温かさに、また涙が溢れて。
想いが溢れて
上手く言葉に出来ないけど
これだけはちゃんと伝えたい
「俺…奏多と夏生と賢吾と一緒にバンドやれて、ホントに幸せだよ」
泣き笑いの、絶対に変な顔だったけど。
「凪ーっ!」
「凪っ!可愛いっ!」
「俺らも、凪とやれて幸せだっての!」
3人は優しく笑って、俺を抱き締めてくれた。
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