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哀歌 4 side奏多

夜明けまでぶっ続けでセックスして。 二人とも意識を失うようにして眠った。 昼過ぎに目が覚めると、凪のフェロモンはだいぶ薄くなってた。 凪のヒートを一緒に過ごすのはこれで3回目。 初日さえ乗り越えれば、後は適正量の抑制剤でヒートが収まることは前回でわかってたから、急いで抑制剤とアフターピルを飲ませて。 もう一度ゆっくり眠らせると、夕方に起きた時にはフェロモンは完全に抑えられていた。 「シャワー、浴びてきたら?」 「ん…かなた、先でいいよ…」 「俺、さっき借りたから」 「…そ?じゃ、入ってくる…」 寝惚けて、舌っ足らずに話す凪が愛おしいと思いながら、バスルームに向かう背中を見送って。 まだ怠い身体を、ごろりと凪のベッドに横たえる。 「…なんだかなぁ…」 利用しろ、と言ったのは俺だ 恋愛感情なんてなくてもいい 凪が少しでも楽に生きられるよう 役に立てればいい そう思ってたのは嘘じゃない、けど… 「…結構、キツイな…」 潤んだブラックダイヤの瞳が俺を見つめるたび 普段は聞けないような甘ったるい声が俺の名を呼ぶたび 甘い香りを放つ身体が俺を求めるたび 愛おしさが溢れて堪らなくなる 凪を自分のものにしたい この腕の中に閉じ込めて 俺のことだけしか見えないようにしてしまいたい そんな醜い欲望が湧き上がって 俺を支配しそうになる 凪には忘れられない番がいて 俺のことなんて友だちとしか思ってないことなんて 嫌という程わかってるのに それでもいいからって言ったのは 他でもない俺なのに…… どうにもならないことをしばらく悶々と考えてたら、凪がバスルームから出てくる気配がした。 慌ててスマホを手に取り、暇潰しをしてた風を装いながら適当にアプリを開く。 「お腹空いた。またピザでも頼む?」 濡れた髪をタオルで拭きながら戻ってきた凪からは、フェロモンとは違うボディソープの柔らかい香りがして。 バクン、と心臓が跳ねた。 「あ、う、うん。そうだな」 動揺して、声が裏返っちゃって。 気を逸らすためにスマホの画面に目を移すと、開いていたニュースアプリのトップに表示されてた記事に、一瞬にして気を取られる。 「え…マジか…」 そこに出ていたのは、5年前の斎藤総理殺害の罪で刑務所に入ってた犯人が自殺した、というニュース。 昨日たまたま斎藤伊織のことを調べていたから、すごい偶然にびっくりしてしまった。 「なに?どうしたの?」 不思議そうに首を傾げながらベッドの端に座った凪に、思わずその画面を向ける。 「斎藤総理が暗殺された事件あったろ?あの犯人が自殺したんだってさ」 そう説明した瞬間。 凪の表情が凍りついた。 「え…?」 そうして、数秒俺の顔を見つめた後、ひったくるようにしてスマホを奪い取る。 「…なんで…?」 「…凪?」 食い入るように画面を見つめる凪の横顔は、なぜか血の毛が失せて、真っ青で。 カタカタと小刻みに震えていた。 「凪?どうした?」 声をかけても、視線はスマホの画面から動かない。 「おい、凪っ!?」 焦ってその顔を覗き込むと、酷く呼吸が乱れていて。 熱くもないのに、玉のような汗が噴き出ている。 「おい、どうした!?大丈夫か!?」 思わず肩を掴んで揺さぶると、ひゅっと喉が奇妙な音を立てて。 「っ…はっ…はぁっ…はぁっ…」 更に呼吸の乱れが激しくなった。 「大丈夫かよっ!?」 「はぁっ…はぁっ…っ…あっ…はぁっ…」 ゴトリ、と音を立てて、スマホが床に落ちて。 「うぅっ…くぅっ…」 苦しげなうめき声を上げ、胸を掻き毟りながら、凪の身体がベッドへと崩れ落ちる。 「凪っ!」 過呼吸か…!? 「凪っ!しっかりしろ!凪っ!」 「う…ぅぅっ…い、おりっ…」 小さな叫びみたいな悲痛な声でそう呟いたあと、突然パタリと動きが止まった。 「おいっ!凪っ!?」 驚いて、その身体を無理やり抱き起こすと、苦しげに顔を歪ませて意識を失っている。 「凪っ!おい、凪っ!」 何度呼んでも、目を開かなくて。 「凪っ!」 俺は凪を抱き締めたまま、救急車を呼ぶ為にスマホを拾い上げた。

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