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哀歌 7 side奏多

後をついていくと、敷地内で一番大きな建物の最上階の広い部屋に案内された。 どうやら、この人がここの病院長というのは本当らしい。 「そこ座って?コーヒー淹れるよ」 見るからに高そうな応接ソファに俺を座らせて、部屋に備え付けられてるコーヒーマシンに先生自ら豆をセットする。 「あの…なんで俺の名前知ってるんですか?」 なぜか楽しげに見えるその背中に問いかけると、笑顔で振り向いた。 「なんでって、君たちのバンドの動画チャンネル、見たからね」 「えっ!?」 「俺の親友が、クリスマスのライブ見に行っててね。オススメされた。俺はあんまりああいう音楽は聞かないんだけど、なかなか良かったよ」 良い香りが部屋中に広がり。 出来上がったコーヒーを注いだマグカップを2つ持って、先生が近付いてくる。 「ミルクと砂糖は?」 「いえ、そのままで大丈夫です」 「凪は、ミルクと砂糖たっぷりのコーヒーしか飲めないんだよ。可愛いよね。知ってた?」 「もちろん。ありがとうございます」 そのまま渡してくれるのかと思ったら、俺の手の届く寸前で手を止めて。 マウント取るような挑戦的な眼差しで見下ろすから、俺は手を伸ばしてそれを受け取り、わざとらしく笑顔を浮かべてやった。 「なんだ、知ってたか」 残念、ってデカデカと顔に書いて。 でもどこか楽しそうな気配を纏ったまま、向かい側へ腰を下ろし、ズズッと音を立ててコーヒーを啜る。 「ま、俺的には音楽がどうこうよりも、凪が楽しそうなのが一番だったけどね。あんなに生き生きしてる凪、久しぶりに見たんだけどなぁ」 その言葉に、俺はノコノコとここまで付いてきた本来の目的を思い出した。 「それで、凪は今どういう状態なんですか?教えてもらえるんですよね?」 「あー、ちょっと待っててね」 身を乗り出して訊ねると、のんびりした声でそう答えられて。 「ちょっとって…!」 思わず立ち上がったのと同時に、ノックもなしにドアがいきなり開いた。 「なんだよ、亮一!今忙しいんだけどっ!」 現れたのは、凪の主治医だというあの医者だった。 「あれ?君、凪の…?」 彼は俺の顔を見て、一瞬きょとんとして。 すぐに、呆れたような大きな溜め息を吐く。 「…亮一って、ホント凪には甘いよね…。自分の息子も、それくらい甘やかしてもいいと思うけど」 「瑞希は、おまえが甘やかし過ぎて最近ワガママがヒドイから、あえて厳しくしてんの。俺まで甘やかしたら、手が付けられなくなるだろ」 「へー、そう…」 「それより今は、仕事仕事」 ふて腐れたような凪の主治医の肩を、院長先生が宥めるように叩いて。 「カナタくん、こちらが凪の主治医の醍醐紫音先生。凪のことは、彼から説明するよ」 俺へと振り向き、そう紹介してくれた。

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