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哀歌 17 side奏多

「ごめん、ちょっと出てくるね」 夕食が終わり、食器を片付けようとしていた時に誉先生の携帯が鳴って。 短い通話の後、先生は慌ただしく出かける準備を始めた。 「どうしたの?」 「お店の子が倒れたみたいでね。ちょっと診てくるよ」 「わかった。気をつけて」 「うん。あぁ、片付けは帰ってからやるから、そのままでいいからね。じゃあ奏多くん、凪をよろしく」 そう言い残して、ドラマに出てくるみたいな大きな鞄を抱えて、先生は出ていった。 「…片付け、やるか」 「うん」 散々飲み食いして、そのままってわけにもいかないから、皿をキッチンまで運び。 俺が洗ったのを凪が拭いて食器棚に戻していく。 「お店って、なんの店か聞いてもいい?」 こんな夜に出かける店って、なんとなく想像はつくから、恐る恐る訊ねると。 「誉先生の奥さんの那智さんがやってる、男Ωだけの高級クラブ」 思ったよりもあっさりと、凪は答えてくれた。 「俺も、勤めてたことあるよ」 「ええっ!?」 「っても、ホストじゃなくて、ピアノ弾くスタッフだけどね」 さらりと告げられた言葉に驚いて大きな声が出た俺に、肩を竦めてみせる。 「那智さんは、ずっと昔からたくさんの男Ωの面倒を見てきた人だから…パパが俺を預けたの。伊織が死んで、生きてるんだか死んでるんだかわかんないみたいになった俺を、持て余してね」 なんでもないことみたいに淡々と話すその裏側に、凪の苦しみや絶望がいっぱい詰まってるのを感じて。 思わず、皿を拭いてる凪の手を、掴んだ。 「…なに?」 見上げてきた、美しいブラックダイヤの瞳を、真っ直ぐに見つめる。 俺は 誉先生みたいには出来ない 凪を無理やりその深い泉から引き上げることは だって今 おまえは自分の力でそこから這い上がろうとしているような気がするから 「…奏多…?」 だから 俺は手を伸ばすよ 凪がいつでも掴めるように 「凪…俺さ…おまえが、好きだ」 ゆっくりと言葉にすると。 凪は大きく目を見開いて、息を飲んだ。 「おまえのこと、好きだよ。誰よりも」 もう一度、はっきりと告げると、瞳が大きく揺れる。 「…奏多…俺、は…」 「見返りなんて、求めてないよ」 震える声で拒絶の言葉を紡ごうとするのを、半分嘘の言葉で塞いだ。 「ただ、覚えておいて欲しい。俺は、凪が好きだ。今の、凪が。おまえがずっと抱えてる想いごと、好きなんだ。それを、覚えててくれ」 辛い過去も 忘れられない想いも 今の凪を作る一部で だったらそれごと全部 俺は包んでやりたい その気持ちを 覚えてて欲しいから 「奏多…」 ひどく揺れる瞳で。 凪は何か言いたげな唇をぎゅっと引き結んだまま、俺のことを見つめていた。

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