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哀歌 18 side凪
「那智さん、お願いがあるんだけど」
誉先生と仲良くソファに並んでまったりとコーヒーを飲んでる那智さんに、声をかけた。
「んー?どうした?」
昨日のお店でのトラブルで夜中までバタバタしてたらしい那智さんは少し疲れてる様子で、申し訳なく思ったけど。
でも思い立ったら吉日って言うしね
「連れてってほしいとこがある」
「どこだ?」
「伊織の、お墓」
「…………え?」
伊織が死んだ後。
俺は彼の葬式に出ることも出来なかった。
俺自身の精神状態のこともあったけど、それよりも伊織の実家から俺の列席を拒否されたらしい。
30以上も年の離れたΩの番なんて一族として認めないと。
伊織の家は代々続くαのみの政治家一族で。
当然伊織のお父さんもお母さんも、お祖父さんもお祖母さんも、全員がαで。
特に伊織のお母さんはΩを憎んでいると言っていいほど嫌っているらしくて、伊織が死んだ後に斎藤家の全権を握ったお母さんが俺を認めないと言えば、それが斎藤家の総意だった。
お墓の場所すら、教えてもらえなかった。
尤も、俺も伊織が死んだことをずっと受け入れられなくて、お墓参りなんて行ったら嫌でもその事実を受け入れなきゃいけなくなりそうで、怖くて。
今まで、自分から調べることもしなかったけど…。
「凪…おまえ…」
「那智さん、知ってるんでしょ?伊織のお墓がどこにあるのか。連れてってよ、俺を」
那智さんのことだ
俺がそう言った時のために絶対にお墓の場所を調べてるはずだ
「…いいのか」
「うん。伊織と、話したいことがあるんだ」
訝しむように細めた那智さんの目を、真っ直ぐに見つめて頷くと。
那智さんは顔を顰め、ガシガシと頭をかいて。
仕方なさそうにノロノロと立ち上がった。
「僕が運転するよ。那智、疲れてるだろう?」
少し遅れて立ち上がった誉先生が、バタバタと車の鍵を取りに行く。
那智さんは小さく息を吐いて。
それから無言で、ポンと俺の頭を軽く叩いた。
都心の広い霊園の中に、それはあった。
他の墓地よりも広い土地に、御影石で作られた立派な墓石には、南無阿弥陀仏の文字が彫られていて。
その横にある墓誌には、まだ真っ白い文字で伊織の名前が刻まれていた。
その愛おしい名前をそっと指先でなぞると、ひどく冷たくて。
最期に俺の頬を撫でた手の冷たさを思い出す。
「伊織…」
名前を呼ぶと、熱いものが込み上げてきて。
「…ごめんね。薄情な、番で…」
無理やり笑顔を作った瞬間、涙が頬を流れ落ちていった。
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