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第3話
それから夏休みということもあり、毎日遥のアトリエに通っていた。
遥と過ごすようになってわかったことがいくつかある。
夏休みにも関わらず遥は毎日制服を着ていた。
学年は校章の刺繍の色から三年生で、美術部は辞めたらしい。
なぜ制服なのかと聞いたら、選ぶのが面倒だからと言われた。
そして、創作中には食事を摂らない。
一度も遥が食事をしている所を見た事がなく、心配もしたけど集中していると減らないらしい。
そして、見てはいけないスケッチブックがある。
僕はそのスケッチブックが気になっていた。
それを広げている時、遥は特別優しい顔をしていて、何をそんなに愛しげに見つめているのかと気になっていた。
──そんな毎日が過ぎたある日。
「遥さんはいつも一人で描いてるんですか?」
「そうだな。夏樹が来るまではな」
遥は柔らかく笑ったかと思えば遠くを見つめ、何かを懐かしむように目を細めた。
「待ってるんだ」
「……何を?」
「待ってても来ない、好きな人を」
“好きな人” というのが思わず胸に引っ掛かる。
「夏樹はいないの? 好きな人」
「僕は、あまり考えた事なかったです」
そう答えながら、ふと遥はあのスケッチブックにその好きな人を描いてるんじゃないかって思った。
だからあんなにも愛おしそうに眺めているんじゃないかって。
そう思うとまた胸がチクッと痛む。
なんだか取り残されたような気がして、複雑で。
……僕はそうなれないんだ。
なんて一瞬、思ってしまって、何考えてるんだってかぶりを振り、なんだか後ろめたくて俯いた。
すると、遥が手を止めてふらふらと部屋に置かれたソファの方へと歩き、そのまま倒れ込むように眠ってしまった。
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