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第5話
目に入って来たのは、幸せそうに笑う男の人。
笑顔だけじゃない、困った顔、悲しげな顔、怒った顔、そして……幸せそうな寝顔も。
遥は好きなものしか描かない。
でも、それを聞いていなかったとしても、きっと僕はスケッチブックをめくるたびに嫉妬しただろう。
それは遥の才能にじゃない、この名前も知らない人に対してだ。
胸の奥からこみ上げてくる感情は、最後のページのスケッチをみた瞬間、涙となって頬を伝っていた。
「何してるんだ!!」
遥の声に驚いて、思わずスケッチブックを落としまう。
「それは見るなって言ったはずだ!」
「ご、ごめんなさい。風が吹いて……落ちたから」
「見ていい理由になんてならない」
「……ごめんなさい」
とてもショックだった。遥に怒られたことより、最後に見たスケッチが。
沈黙する遥に涙をためた情けない顔を見られたくなかったけど、僕は顔をあげる。
「遥さんは男の人が好きなんですか?」
「……そうだよ。軽蔑するか?」
僕はかぶりを振り、床に落ちたスケッチブックを拾い上げた。
「……僕。たぶん嫉妬してるんだと思う」
「嫉妬?」
「見た瞬間にわかった。これは遥さんの好きな人だって。でも今はどうして僕じゃないんだろうって思ってる」
最後に見たスケッチが目に焼き付いて離れない。
そして想像してしまう。背景がこの部屋なのは明らかで、あられもない姿で眠っているその人は幸せそうな顔をしていた。
「……夏樹?」
ぼろぼろと涙をこぼす僕を心配して遥は僕の顔を覗き込んだ。
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