6 / 15

第6話

遥はここで好きな人を待っていると言っていた。 “待ってても来ない、好きな人” を。 「どうしてその人は来ないんですか?」 「俺が傷付けたから」 「でも待ってるの?」 「待ってるよ」 「……今でも好きなの?」 答えることなく寂しそうに俯く遥を見ていると、思われているこの人が羨ましくて仕方がない。 自分がそうなれないのが悔しい。自分ならこんな顔はさせないのに。 「僕は一番にはなれないですか?」 「なぁ、夏樹」 嗜めるような言い方を遮って遥の両肩を掴み、引き寄せて強く抱きしめる。 背格好は僕とほぼ同じなのにとても華奢で、とても体温が低い。 冷たい体を抱きしめているとすごく切なくなった。 「夏樹。やめてくれ」 「やめない。初めて人を好きだって思ったんだ」 「俺は応えられない」 「どうしてですか?」 「……俺はもう人を好きにならないって決めてる」 「どうして!」 語気を強めるように返しても、遥は強い眼差しで僕を制した。 「夏樹の人生を狂わせたくない」 「狂ったりしない」 「俺はもう、人を不幸にしたくないんだよ!」 すごく苦しそうな表情を見て、胸が痛い。 こんな顔をさせたいわけじゃないのに……。 「もう、帰ってくれ」 「遥さん……」 そう言いながら遥は僕の体を押し返した。 「……もう帰って。それで二度とここには来ないで」 嫌だとか、嫌いにならないでほしいとか、散々わめいてみっともない所を見せて、結局追い出された。 そこには絶望しかなかった

ともだちにシェアしよう!