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第8話
あの後、先生に見つからないように思わず絵を持って帰って来てしまった。
もっとじっくり見たいと思ったのもあるけど、唯一の遥の絵を独占したい気持ちもあった。
包まれた絵を見ながら大きなため息をつく。
とりあえず帰ろうと、歩き出したその時。
「あ……」
人混みの中に遥のスケッチブックに描かれていたあの人を見つけた。
思わず人混みを掻き分けてその人の腕を掴む。
「あ、あの!」
しかし、引き留めたものの相手の名前を知らなかった事に気付き黙っていれば、その人は不機嫌そうに眉をひそめた。
その雰囲気は遥のスケッチブックで見たのとは印象が少し違って見えた。
「すいません。僕、碧海さんの後輩で、風間と言います」
「……碧海の後輩? 何の用?」
「あの……碧海さんに会いに行かないんですか?」
突拍子も無いことを言ってしまうと、その人は眉間にしわを寄せた。
「あいつ、意識回復したわけ?」
「いや、そうじゃないけど。碧海さんはいつもアトリエで待ってるって……」
そう言った瞬間、その人の顔色が変わる。
「気持ち悪いこと言わないでくれる? あそこさ、碧海があんな事になってから幽霊騒ぎとあって気持ち悪いんだよ」
「そんな言い方……。思い出の場所でしょう?」
「思い出? 若気の至りだろ」
「でも……碧海さんと……」
僕の脳裏に浮かんだのは、あのスケッチブックの最後の絵だ。
でも、その言葉を口にした途端に、血相を変えた彼は僕の腕を引っ張って人の目につかない路地裏の方へと連れていく。
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