10 / 15

第10話

どれくらい殴られていたのか、殴り飽きた彼はもう現れるなとか色々言って帰ってしまった。 ハッとして遥の絵の包みを開ける。 「……破れてる」 守り切れなかった事に落胆しながら破れている所をなぞると、その絵は布が二枚重ねられていた。 鞄の中からリムーバーを取り出しタックスを抜いていく。 そこに描かれていたのは、またあの人だった。 それはまるで遥の秘められた恋そのもののように思えた。 「……どうして、あの人ばっかり。どうして、僕じゃないんだ!」 大きく叫び声を上げると、その絵を抱えて走っていく。 気が付けば無我夢中で、西日を背に受けながら上り坂を駆け上がる。 息も切れ切れのままアトリエのドアを開けると、遥は変わらず窓側に座っていた。 「……もう来るなって言ったのに」 そう言って振り返ると遥の顔色が変わった。 「どうしたんだよ、その顔」 遥の問いかけに答えることなく、僕は遥を抱きしめた。 「……僕じゃ駄目なんですか?」 やはり遥の体は華奢で冷たい。 「離せよ。つか、どうしたその顔」 「嫌です。好きなんです」 「好きとか言われても困る。言ったろ? 俺は夏樹を不幸にしたくない」 「僕は不幸になってもいい。人生を狂わされたって構わない! 僕はあの人とは違うから!」 僕を押し返そうとする遥の手が強張った。 「どこまで知ってるの?」 「……トラックにはねられて意識不明の重体だって」 「そっか」 「生きてますよね……?」 「かろうじてな」 「事故……なんですよね?」 心配そうな顔つきなる僕に遥が柔らかく笑いかけた。 「事故だよ。でもはねられた瞬間、あー死ぬんだなって思ったらそれでもいっかって思ったんだよな」 「あの人に酷いことを言わたからですか?」 「あいつは悪くないよ。俺が全部悪いんだし」 それでも尚、その人を庇う言葉に嫉妬心がむき出しになっていく。

ともだちにシェアしよう!