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第12話 じゃあ

 違和感、すごかったけど、翌朝には先生のが入ってた感覚とか残ってなくて、少し残念だった。  もう少し味わってたかったのに、なんてことを思いながら、朝、起きて、ベッドから出ようとしたら、腰の辺りに気だるさと、なんとなく程度の痛みを感じて。 「っ」 「おはよう」  嬉しかったんだ。 「……身体、痛い?」  嬉しかった。  翌朝、目を覚まして、昨日残ってた余韻はもう身体に馴染んでわかんなくなってたけど。 「……ぁ」  起き上がるとあの時と同じ、腰の辺りに重く、鈍い痛みを感じた。  気だるさ、みたいな感じで身体に残ってる。 「無理せず、もう少し寝てな。チェックアウトギリギリまで」  昨日、先生としたセックスの余韻。  あの後、ふたりでシャワーを浴びた。ビジネスホテルのシャワールームにしては広かったけど、ふたりで入るには少し狭くて、ドキドキして、仕方なかった。  先生、勃ってたし。  けど、そのまま、しなかった。  一瞬だって、気を失ったんだからって、優しくキスだけしてくれた。  それからシャワーを終えて、ベッドで寝た。  ツインだったから、それぞれのベッドで。 「志保は、朝弱いんだな」  笑われて、ちょっと素を知られた居心地の悪さに口がへの字に曲がってく。  朝は苦手だ。  でもあの頃だけは朝、起きるのが苦じゃなかったよ。  先生に会えるから、  朝は早くに登校してた。朝礼に遅刻なんてするわけないくらい早く。そうすると先生がたまに教室に来て、手伝いをさせてくれたりするから。  おーい。誰か運ぶの手伝ってくれって。  俺は大急ぎで立ち上がって、先生の後をついて歩くんだ。  背、高いなぁ。  肩広い。  背中も広い。  サンダル、ぺたぺた足音がする。  普段は女子に囲まれていて、サンダルの音も肩幅もじっくり鑑賞してられないんだ。だから、先生の後ろ、半歩、五十センチのところから、先生の後ろ姿をたっぷり鑑賞してた。  ――朝、毎日早いな。  そう言われて、飛び上がりながら慌てて。隣のクラスの人の方がずっと早いですとか言い訳したんだ。先生に会いたくて早く来てること、あわよくばこうして手伝いをさせてもらえることを期待してるって、バレてしまうんじゃないかって。  でも、そう、朝はめちゃくちゃ苦手。  朝起きるのにアラーム、めちゃくちゃ掛けてたくらい。スマホのアラーム、五つセットしてた。寝ぼけながらスヌード機能も止めちゃうから。時間バラバラに設定して、起きたい時間の三十分前から鳴るように。  そんな少しだらしのない素性を知られてしまって、バツが悪くて、ベッドの中で膝を抱えるように座り込んだ。 「先生は、早起きだね……」 「あー……まぁ」  窓の外は明るい朝の清々しい日差しが白いカーテン越しに入り込んでる。 「…………あ、ねぇ、先生さ、ワイシャツ、大丈夫だった?」 「?」 「俺、皺くちゃにしちゃったじゃん」 「あぁ、いいよ。別に帰るだけだし」 「けど、あ、ほら、なんかあるじゃん。ホテルってさ、サービスで」  多分さ、ホテルにいえば、なんかしてくれたりしない?  洗濯みたいなの。  ビジホに泊まったことがないからわからないけど。  高級ホテルだけ?  掃除とかしてくれたりするじゃん。そういうの。だから、ここにもあるかなって。  俺が寝たベッドと、先生が寝たベッドの間、ランプが置いてある小さなテーブルにホテルの利用方法みたいなのが書かれてそうな、黒いクッション素材になっているカバーつきのクリップボードを開いた。 「あ、ほら、ランド……リー」  心臓跳ねる。 「……いいよ」  まだ裸のままいつまでもベッドの中にいた俺。体育座りをして掛け布団ごと抱えるように膝を折って丸まっていた俺は、皺くちゃにさせたワイシャツをどうにかしてあげたくて、うつ伏せに寝転がってそのクリップボードに手を伸ばした。  あったよ。洗濯のサービス。っていうか、自分でするんだって。コインランドリーがある。ビジネスホテルだからか。乾燥機付きだし、そしたら、一時間で終えるから、まだ……チェックインまで。  そう言おうと思った。  でも、振り返ろうとしたら、先生が布団の上から覆い被さるように、俺の上にいて、心臓が跳ねて、言葉が止まった。 「…………先生?」 「平気。ワイシャツの皺ならジャケットで誤魔化せる」  近くて、ドキドキする。 「あ、の」  いつも遠くから、もの欲しそうに見つめてるばかりの存在だった。  今日だってそうだ。同窓会、はしゃぎながら行ってはみたものの、話かけることもできずに、チラチラ遠くから見つめてるばかりだった。  こんなふうに近くに来れたのはたった一ヶ月、とてもとても暑い夏の間だけ。  だから、セックス、あの夏にたくさんしたけど、昨日、したけど、この近い場所で目が合うと、頬が熱くてたまらなくなる。 「志保」 「?」 「付き合ってる男、いる?」 「は? そんなのっ、いるわけないじゃんっ、いたら」  いたら、先生と、セックス、しない。多分、だけど。  だって、俺、先生しか好きになったことない。先生以上に、好きになった人、いない。だから、わからないけど。 「じゃあ、付き合おう……か」 「は? え?」 「もう生徒と教師じゃないし」 「あ、あのっ」 「また順番逆になったけど」 「え?」  また、順番、って。  また、って。  じゃあ、あの時も、セックスから始まったけど、付き合うことができたってこと? 「付き合おう」  あの夏が終わっても、続いてた? …………の? 「っ」  ど、しよ。 「真っ赤」 「!」  あぁ、どうしよう。  真っ赤になってるの見られた。 「ま、真っ赤じゃないしっ」 「あぁ、そうだな」 「こ、これはっ」 「あ、っていうか、連絡先、教えないとか」 「これはっ」  ねぇ、どうしよう。  重くて、気だるい身体が、今度は一気にじっとしていられないくらいに、今すぐにでも走り出したくて仕方がないくらいに、はしゃぎ出してる。 「これはっ」  先生と付き合えるんだって!  そう、跳ねて飛んで、灼熱のグラウンドだって走り回れそうだった。

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