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第16話 ウロウロ、ぴょん

 また、する……かな。  多分、する……と、思う。  多分。 「そのスクラブ、すっごくいいんですよ。天然のソルトとアーモンド、ホホバオイルとかの天然オイルにキウイとマンゴーの成分をプラスしてて。首から下、全身に使えます。使った後とか、本当にツルツルなんですよー。しかもいい香りがするので」  すっごい、おすすめですって、にっこり笑顔でプラチナブロンドの髪色をした店員に言われた。 「あ、こっちはぁ」  多分、だけど、でも次も、先生と、するならさ。 「あー、じゃあ、こっち、キウイとマンゴーの」 「はぁい」  肌とか、いい感じにしようかなって、そう思ったんだ。  社長にモデルをやらない? と声をかけられたのは、大学に入る前の春休み。  ――気持ちいいな……志保の肌。  そう言って、よく先生がセックスに楽しそうに俺の素肌にキスをしてくれたから。  なんか、それを持続させたくて、肌のケアとかやっててさ。肌ケア用のコスメを探してたんだ。  男じゃん?  まだガキの高校生で、その当時は華奢で、中性的だったし、肌とか確かにスベスベだった。けど、高校の途中くらいから段々と背が伸びて来て、今更? ってタイミングで、身長はクラスでも高い方になるし、筋肉だって身体について来て、身体付きが男っぽくなって。  なんか、先生が気に入ってくれてた俺がいなくなりそうで、肌だけでもって、スキンケアとかするようになったんだ。  別に今の時代、男が化粧品コーナーにいるのなんて驚くことでもないじゃん。  けど、いきなりそこで「うちのモデルにならない?」なんて声をかけられたのは驚いたけど。  でも……うん。 「……」  風呂上がり、鏡の前にいる自分を見つめて、肌の感じを観察してから、手首の辺りに鼻先をくっつけた。  あ。  良い感じ。  とろりと甘い香りと、爽やかさが心地いい甘い香りが混ざってる。  香り持続するかな。  したらいいな。  肌触りもいいし。  これなら、先生が触れた時とか。  ――体温高いのな。  良さそう。  少し満足しながら、もう一回鏡の中の自分を見つめた。  髪、あんまワックスとかしないほうがいい、かも。  触ってもらった時にベタついたらやだし。  服はどうしようかな。 「あ」  つーか、どこ行くんだっけ?  土日、どっちか空いてる? って訊かれたけど、土曜日にすんのかな。日曜日? どっちも、はないか。さすがに。学校の準備とかありそうじゃん。日曜日は。  じゃあ、土曜日かな。  どこ行くのか聞いてない。  服、どんなのにしようかな。  つーか、天気は? 「……ビミョー」  曇り、だってさ。時々雨だって。  そうなると靴とか考えないとじゃん。寒いかもしんないから、カーディガンとか持ってく? 「うーん」  色々、考えながら、服を着て、早く乾かさないといけない髪をほったらかしにしたまんま、スマホで天気と気温を検索してた。  先生に週末大丈夫ってメッセージを送った。その返事に送ってもらった、めちゃくちゃ嬉そうにはしゃぐウサギのスタンプで、やりとりが終わってる。  どこ行くの? とか訊いたほうがいいかな。  即ラブホ、とか?  まぁ、それでもいーけどさ。  でも、できたらどっか行きたい。  先生とどっか行ったことないし。  この前みたいに大人の居酒屋でもなんでもいいから。  学校と、この間の居酒屋、それ以外の場所にいる先生が見てみたい。 「!」  その時だった。  ――夜遅くにごめん。週末、土曜に。  待ち合わせ場所と、時間を先生が連絡してくれた。  っていうか、今、先生のくれたスタンプ見つめてたから、ほら、送ってもらったばっかのメッセージに速攻で既読マークついちゃったじゃん。監査してるみたい。なんかずっとこのメッセージガン見して待ち構えていたみたい。  ちょっと怖くね?  でも、先生から連絡をもらえたことに、ひょこって気持ちが跳ねて。  とりあえず、返事を、そう思ったところだった。 「!」  もう一回気持ちが跳ねた。 「も、しもし」 『ごめん。寝るところだったか?』 「ううん」  すご。電話してる。 『既読ついたから起きてるのかと』 「起きてた。風呂上がったとこ」 『そっか』  先生の声、低い。静かだ。うち? だよね。もう夜の十一時近いし。仕事してるわけないか。 「……」 『……』  二人で無言になるとか、電話で。  けど、突然過ぎて、なんか上手に話を切り出す準備ができてなくて、どうしようか。このままじゃ、何この無言ってなるじゃん。 「……っ」  デート、って名前でいいのかな。その週末に予定空けておいてって言ってたやつ。空けておいてとは言われたけど、デートしようと言われたわけじゃなくて、けど、付き合おうって言われたから、付き合ってるんだろうし。なら、それってデート、デショ。 『週末の』 「う、うんっ」 『デート』  わ。デートって言ってもらえた。 「う、うんっ」 『行きたいとこある?』 「え? あ、いや……特に、は」 『じゃあ、ドライブ、とかする?』 「え! あ、うんっ、するっ」 『オッケー』  あ、少し、なんか先生が笑ったかも。なんとなく声の感じが笑ったっぽい。  でもさ、見たいって、思わず気持ちがぴょんって跳ねたんだ。先生が運転してるとことか見たいじゃん。見たことないんだから。それに、なんかデートの王道って感じするし。二人っきりだし。 『じゃあ、うちまで迎えに行くよ』 「え、あ、いいよ。悪いから。わかりにくいし」 『ナビで大丈夫だろ』 「ナビだとなんか違うとこ示すんだよね。前にバイト先の社長に迎えに来てもらった時に間違って辿り着かなくて。だから駅で大丈夫だよ」 『そう? じゃあ、今度教えてもらう』  わ。すげ。今度、うち教えんの? マジで? 『最寄り駅まで行くから』 「あ、りがと」 『おやすみ』 「あ、うん」 『楽しみにしてる』 「! う、うんっ」  そこで電話が切れた。長くダラダラ話すわけでもなくて、いや、先生とならダラダラとした長話もすごいしたいけど、でも、短い電話がなんか、すごく先生って感じで。大学の奴らとする電話と全然違ってて。 「……ドライブ、か」  短い電話にすごいドキドキした。  ほら、まるで今、お湯から上がったみたいに、頬が赤い。 「って、やば、髪乾かしてないじゃんっ」  そして、嬉しすぎてるみたいで、なんか独り言をめちゃくちゃ溢してる自分の口元が呆れるくらいに、ゆるゆるに緩んでた。

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