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第25話 悩める恋よ。

 世の中のカップルって、そういうの、どうしてんの?  ほら、普通にああやってベンチで楽しそうに話してるカップルとかだって、その、することはしっかりやってるわけだろ? 「あ、カズくん、この後どーするぅ? デート」 「んー、そうだなぁ。うち来る?」 「いくー」  そういう時に、もっとしたい、とかさ。 「あー、けど、明日朝早い。泊まってい?」 「いーけど、別に」  こういうのしたげる、こういうのして欲しい、とかさ。  どうしてるわけ? 「おま……なんて顔で幸せそうなカップル睨んでの?」 「……睨んでない」 「いや、こえーから」 「睨んでない。眩しいからそういう顔になっただけ」 「はいはい」  山本はどかっと隣に座ると、ふぅ、と溜め息を零した。もう秋のはずなのに、秋とは思えない日差しを浴びせる、ただいま温暖化なのでって感じの秋空に、目を細めた。 「すげぇ天気」  確かに、すごい快晴。  けど、夜は雨って言ってた。台風が来てるとかで。 「って、お前、昼飯行かないの? つーか、今日、午後ねーじゃん。帰んないの?」 「時間潰してるだけ」  そう、台風が来てて、ずっとお天気と睨めっこしてた。 「今日、先生とこの後会うから」  学校の運動会が一昨日、土曜日にあったんだ。それが台風直撃かも、なんて一週間前は言われてて。台風が来ちゃうと、土曜日にやるはずだった運動会が日曜か月曜にズレ込む。日曜は、先生とデートの予定だったから台風に来られると、やだった。けど、今日、月曜日にずれられても、嫌だった。せっかく、大学の後にも会えるから楽しみだったし。  今日は水族館、行こうって。  平日の夕方の水族館なら人もそんなに多くないだろうからって。  俺、そこまで有名なモデルじゃないから、周りにバレたりしないって言ったけど。でも、先生も、教師っていう仕事してて、相手がちょっとだろうと人目につく仕事してたら、色々あるかもしれないから。普段は、人のいないところを選んでる。土日なんてどこ行っても人で溢れてるじゃん。  だから、今日のデート、すごい楽しみにしてた。 「へー、平日、初じゃね?」 「うん、そう」  デートは毎週してる。  もうこれで、四回目。だから、先生と付き合って、一ヶ月。  昨日のデートは家で映画見て、一緒に夕飯食べて、それで――。  毎週末、会ってくれる。  先生の空いてる時間、ほとんどで俺のこと構ってくれる。  して、くれるし。  けど、毎回。 「なるほどなるほど」 「なんだよ」 「いや、さっき、今日のSHIHOくん、めっちゃかっこよー、って騒いでたのは、今日、デートだからなわけだって思っただけ」 「……何その、今日のSHIHOくんって」 「最近の君のあだ名」  それ、あだ名にならないだろ。本名だし。 「順調じゃーん」  順調、だよ。  毎週デートしてもらえてる。毎週セックスもしてもらえてる。  いつも俺のこと気遣ってくれる。  うちデートがほぼなのに、いつも笑顔で接してくれて。もっとどっか行きたかったりしそうなのに。退屈しちゃうことだってあるはずなのに。  いつも大事にしてもらえてる。  けど――。 「デート何時から?」 「? もう、そろそろだけど? 車で迎えに来てくれるから」 「ここまで?」  そう。そのほうが楽だろ? 電車乗って、うちの大学から先生の自宅最寄り駅までだと二回乗り換えしないといけなくて、ちょっと面倒だから。全然、先生に会えるならどこまでだって俺は行くし、面倒とか思わないけど。  でも、車で来てもらえたら、少しでも早く先生に会えるじゃん。  運転してる先生見るの好きだし。車内で二人っきりになれるのも、すごい好きだし。 「!」  ――ごめん。少し道混んでた。着いたよ。一応、大学近くのコンビニの駐車場にいる。一番奥。  先生だ。 「先生来たから、俺、帰る」 「おー」  立ち上がると、山本も立ち上がった。 「? 山本も帰んの?」 「うん」 「……」  二人で大学の門を出て、俺は、先生がいるコンビニに。 「…………駅、向こうだけど? 山本」 「うん」 「俺、こっち。コンビニに先生いるから」 「うんうん」 「? コンビニ、行くの?」 「うーん?」 「は?」  どっち、その返事。  それでもニコニコついて来るから、首を傾げて、けど、先生を待たせたくなくて、そのままコンビニへと向かった。すぐそこ、ここの大学生しか来ないような、専用みたいになってるコンビニに行くと、確かに一番奥、大学からコンビニに行くのなら通らない、奥の奥に、先生の黒い車が停まってた。 「あれ、先生?」 「あ、うん」 「ほお」 「? 何、」  意味わかんない山本が、にっこりと微笑んで、俺の頭上に手を伸ばした。 「何?」 「いや、頭に葉っぱがな」 「は?」  そして、俺の頭に触れて。 「おい、セットが」  髪に。 「志保」 「!」  先生の声に、パッと振り返った。 「ごめ、先生」  車のそば、運転席側から外に出て、先生が待っててくれた。 「も、山本意味わかんねぇ。それじゃあな」 「おー、じゃなー」  やたらと楽しそうに手を振る山本にもう一回首を傾げて、先生の車に駆け寄る。 「ごめん先生」 「いや……」 「あいつは、大丈夫。一番、仲良い奴で、わかってるから」 「……」 「ごめんね。せっかくの休みなのに」  道混んでたって言ってた。急いでくれたのかもしれない。だから、申し訳なくて、慌てて車の中にお邪魔して、山本がいる方を、車内から見た。  何したかったんだろ。  コンビニ寄らずに帰ってるし。 「晴れて良かったね」 「……そうだな」  そして、走り出した車の中、さっき意味のわかんない山本のせいで崩れた気がする髪を大急ぎで、手櫛で直しておいた。

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