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第30話 可愛い大人
ケーキを好きなだけ、欲しいだけ、何も気にせず食べたら、きっとこんな感じなんだろう。
果物でお腹いっぱいにしたら、こんな感じなのかもしれない。
幸福感で蕩けてる。
「先生ってさ、絶倫?」
「っぶっ、ゲホッ、っ、ゴホッ」
「ごめっ、平気」
ベッドの端に座って水を飲んでた先生に、ふわふわしたまま、ほろりと何気なく訊いた。
セックスの余韻がすごくて、まだ夢見心地の中で。バスルームに行けるようになるまでしばらくベッドで脱力して休んでた。
今日の先生、すごく、違ってたから。
ほら、むせた先生に慌てて起き上がったら、まだ中に先生がいるみたいに奥がキュってなる。
「平気? 先生」
「お前ね……」
「だって」
すごかったから。
何回したっけ。けど、先生が俺の中で三回、イッたのは覚えてるよ。
突かれる度に頭の芯が痺れるくらいに気持ち良かったのも覚えてる。
あと、二回目に先生が中でイッてくれた時、中から先生のが溢れちゃいそうで、咄嗟に身じろいだら、手、取られて、ベッドに押し付けられたまま、バックで続けてしてもらえた。それもちゃんと覚えてる。
萎えずに硬いままだったのが、嬉しかった。
先生ので濡れた中を掻き分けながら、奥まで来て。
――まだ。
そう低い色っぽい声で言ってもらえたのも、ちゃんと覚えてる。
「身体キツくないか?」
「全然」
「……いつも、足りなかった?」
先生が手を伸ばして、俺の頬を撫でてくれる。優しい手はとても気持ち良くて、まるで猫みたいにその手のひらに自分から頬を寄せようと首を傾げた。
「足りないっていうか」
それともまた少し違う。
ケーキ、食べてもお腹いっぱいにはならないでしょ。けど、あぁ、もう食べ終わっちゃったって、なるじゃん。あんな感じ。
「もっと欲しかっただけ」
そう素直に答えたら、目を丸くして、さっき先生が洗ってくれた髪を指ですいてくれた。
「先生は? 足りてた?」
「……抱けるだけで充分だったから」
俺を?
「昔も、今も」
ね、それ、もっと聞きたい。
そんな顔をしたと思う。先生が俺の事を想ってくれてるってとこを聞きたくて、きっと散歩を期待するワンコみたいな顔をした。
先生は笑ってベッドの端に座ってた向きを俺の方にして、もっとちゃんと頬を撫でてくれた。
「高校生の頃は今より華奢だったろ」
そうだね。俺、身長伸びたの、先生と別れた後、二年の時からだったから。一年でみるみるうちに身体付きが変わって嫌だったっけ。成長痛もすごくてさ。
先生が知ってる俺じゃなくなるのも、先生が抱いてくれた身体じゃなくなるのも、すごい嫌だった。背、止まれってマジで思って、その年だけは初詣で、背がこれ以上伸びませんようにって願ったくらい。
叶わなかったけど。
「潰しそうで怖かった」
「……」
けど、それ以外は叶った、かな。
「潰れないよ。俺、男だよ?」
先生にもう一回会いたい、って願いは。
「高校の時はそうでも、今はそれこそ、華奢でもなんでもないじゃん」
「そんなことないよ」
「背も先生と同じくらいだし」
くすぐったい。
頬を撫でられて、少し肩をすくめると、優しい唇が肩に口付けてくれる。
先生の唇は、柔らかくて、優しくて。
「体格だって」
その唇が唇に触れてくれた。
「嫌われたくないからな」
先生の唇がたまらなく好き。
「嫌うわけないじゃん。ないし。マジで。遠慮とかも全然」
「しないと大変なことになるけど?」
「いいよ。マジで」
「いたいけな高校生だった志保に我慢できず手を出すような男だぞ? そんなこと言って調子に乗らすと」
「乗ってよ」
手を伸ばして触れると笑ってくれた。
「だって、教師だった先生に毎日だってしてもらいたくて夏休み学校に通うような悪い生徒だったんだから」
「じゃあ、一つ」
「?」
俺の好きな先生の唇に指で触れたら。その指を先生の手がきゅっと握ってくれて、引き寄せられる。
「っ、ン」
引き寄せられて、先生の胸に飛び込むように前に倒れたら、受け止めてくれて、その首筋にキスをしてくれた。
「他が来ないように」
少し痛いキス。
「ずっと付けておきたかった」
肌がチリってして。
「印……」
気持ちがとろりと蕩けたキス。
「…………」
夜は少し話をして寝ちゃったから。
見たのは翌朝だった。
今日は俺は大学で、先生は学校があるし、運動会後の細かい片付けがあるから早く出なくちゃ行けなくて、少し早起き。
ごめんなって言って、先生が謝ってくれた。
大丈夫だよって笑うと、頭のてっぺんにキス、してくれた。
それで、俺は洗面所に来て。
今、先生は朝食の準備をしないとってキッチンに行ったから、今のうちに見てようと。
「……すご」
見つけて、今、ちょっと、嬉しくて顔がニヤけてる。
先生がつけてくれた、これ、キスマーク。
他が来ないようにって。
来ないけど。
来たって、俺、先生以外とかないし。
けど、すごく嬉しくて。
じっと見てた。
「志保、俺も顔を、」
ね、赤い印がくっついてた。
洗面所にやってきた先生が俺を見て、それから少し顔を赤くした。
「悪い。ちょっと調子に乗った」
赤くしながら大きな手でその口元を隠して、ちらりと視線を横に向けた。
「ったく、大学生で友だちの目もあるし、お前はモデルなのに、悪い」
照れてる。自分に大きな溜め息ついてる。何してんだって、自分のことを諭してる。
「全然、めちゃくちゃ嬉しいよ」
そんな先生がすごく可愛いって思った。
年上なのに、普段かっこよくて、大人で、なんでも俺より知ってる先生なのに。
可愛くて、笑いながら、朝のキスをした。
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