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第45話 未来プラン

 まるで修学旅行や、楽しい旅行の朝みたい。  先生の部屋に泊まった朝はいつもそう思いながら、頭上の大きな窓を見上げる。カーテンの隙間から日差しが差し込んでいるのを見ながら。それから視線を移して、時計を見て、夕方までどのくらいの時間があるんだろうと考える。  あーあ、もう、あとちょっとしたら帰らなくちゃ、って。 「起きたか?」 「!」  寝てると思ってた。  先生は仰向けで目を瞑ってたから。俺はその隣にくっつくように横向きで眠ってた。 「おはよう」 「……お、はよ」  朝が苦手だったんだなって、再会して、最初に迎えた朝に笑われた。それからずっと、ちょっと、先生の中で俺は寝坊する子って思われてそう。 「二日酔いは?」 「ぁ、ううん、そんなに昨日飲んでないよ。先生は?」 「俺も、たいして飲んでないから」  歌を歌ってた小林先生はもしかしたら二日酔いかもなって。  言いながら起き上がると、秋がだんだんと冬に近づいてるのを感じる。部屋の冷やされた冬に近くなってきた空気が肩に触れると、ほら、まだ、もう少しこの心地よい場所に潜り込んでいたいって。 「冬休み、大学は、いつくらいから?」 「え?」 「俺も年末年始は休みだし。夏休みと違って、学校に出ないといけない日がかなり少ないから」  そうなんだ。確かに、夏休み、学校に来てたもんね。もっと子どもの頃は学校の夏休みは生徒も先生ももらえるものだと思ってたっけ。生徒が夏休みでいないんだから、生徒に教えないといけない先生も休みだろう、ってぼんやりと思ってた。ラッキーだねって思ったけど、全然違ってた。 「旅行、どうかと思って」 「! 行く!」  思わず、飛び起きた。 「行きたい! どこでも!」  はいはいはいはいって、大慌てで手をあげまくる生徒みたいに。 「じゃあ、どこか探しておく。そう遠くないところで、温泉かな」 「うん」  やった。先生と旅行だって。 「他は?」 「え?」 「デート、行きたいところ」 「えっと、っていうか、なんで急に?」 「昨日、言ってただろ?」 「?」 「肉まん半分こ、同じ学生だったらしてみたかったって」  言った、よ。  他愛のない話。  時間なんてどうにもしようがなくて、どんなに駄々を捏ねても、どんなに足掻いても、俺たちが同じ歳になることは決してなくて、ずっと、ずーっとこの歳の差は変わらず、俺と先生の間にある。 「歳の差はどうにもならないけど」 「……」 「志保が行きたかった場所とか、したかったこととか、今からしたいと思ったんだ」 「……」 「だから、次のデート、どこ行きたい?」  したいことも、行きたいところもたくさんあるよ。 「あの後、それぞれになってから、志保が俺とのことを考えてたりした、色んなやりたいこと」  先生と別れた高校一年の秋からずっと思っていたこと。 「あ……えっと」  そんなのたくさんありすぎてわかんないくらい。 「変なこと、かも」 「いいよ、なんでも」 「ハロウィンとか、なんか、したい」 「あー、そろそろだな」 「うん」 「仮装する?」 「先生のは見たい」  けど、自分の別に、って言ったら、先生は俺の仮装が見たいって、けど自分のは別に興味ない、って二人で同じようなこと言って笑ってた。 「あと、えっと、イルミネーションは見に行きたい」 「あぁ、ちょっとしたら始まるかもな」 「ク、クリスマスもっ一緒に過ごしたい!」 「ケーキ買って?」 「うん、そうっ」  飛びつくように付け足すと、顔をくしゃっとさせて、オッケーって笑ってくれる。 「キャンプとかっ」 「あぁ」  楽しそうでしょ? けどこれからの時期だと少し寒いかな。 「あ、俺の住んでるマンションの近くにすごい桜がたくさん咲くとこあるんだ。お花見行きたい」 「あぁ、いいな」 「あ! っていうか、俺の部屋、先生来たことないじゃん」  そういえば、なんか、毎回先生のとこに来ちゃってた。だって先生のとこにお邪魔できるのが嬉しくて、つい。けど、俺のところに先生が来てくれたら、それもすごく嬉しいけど。 「じゃあ、今度な」 「来てくれる?」 「もちろん」  やった。 「一緒に買い物したりとか、普通にスーパーでもどこでもいいよ」 「スーパーでいいのか?」 「うん」  日用品とかをさ、あれが足りないよ、これがそろそろなくなるかもって言いながら買い物するの、すごいしてみたい。 「あ、あとカラオケ」  あ、少し渋い顔した。歌、苦手なのかな。けど、聞いてみたい。ねぇ、先生の声ならどんなに音痴だってかっこよく聞こえると思うし。  それからたくさん、したかったことを思い出せる限りで並べていった。映画も見に行きたいし。夏ならプールに海だって。 「今、全部思い出せないかもっ、っていうか先生は? 先生も、その指輪、してた間にしてみたかったこと」 「あー」 「ある? あるなら俺、なんでも」 「今、してるから」 「……」 「充分、かな」  そして、優しく指輪をしている方の手で触れてくれた。  嬉しそうに俺を見つめがら、そっと触れてくれる。ただ一緒にいたかったって、それだけでよかったって言われてるみたい。 「あと、もう一つ、あった、先生」 「?」 「指輪、欲しい」 「……」 「お揃いの、ちゃんと、大人の、指輪」  メッキのじゃなくて、おもちゃじゃなくて、サイズもちゃんと調べて、なんならお互いの名前くらい彫ってみたりする。ちゃんとした、指輪。 「いいな……」  それが欲しいって言ったら、もっと嬉しそうに、幸せそうに笑いながら。 「素敵だ」  そう言って、優しく丁寧にキスをしてくれた。

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