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第49話 毛羽立つ気持ちを撫でて、あやして、その手で

 子どもみたい、だよね。 「……」  まるで、抱っこをせがむ子どもだよね。 「……」  来てすぐ抱きついたりして。  先生だって、どうしたって思うでしょ。なんも要らない、夕飯も何も、とか言われてさ。  でも、抱き締めて欲しくてたまらなかったんだ。 「腹、減ってないのか?」 「ん」 「……撮影大変だった?」 「ううん」 「お疲れ様」 「うん」 「っぷ、ホント、志保は返事の仕方が」  ガキっぽい? 「可愛いな」  お返し、みたいにぎゅっと力強く、きつく抱き締め返してもらえて、心の中が甘いもので染まってく。さっきまで広がっていたチリチリとした刺激物が先生の体温で和んで、先生の低音の声に落ち着いて、先生の言葉に機嫌を直した。  どのくらい、玄関で立ったまま先生に抱きついてたんだろう。落ち着くまで、苛立ちに毛羽立った気持ちがゆっくり、頭を撫でてくれる先生の手にその毛羽立って、ささくれみたいになったところをゆっくり撫で付けてもらった。  先生が疲れちゃうじゃん。  そう思うけど、ずっとこうしてたい。 「飯」  いらないってば、本当に。お腹なんか空いてない。  本当に、俺、先生しか欲しいものないんだ。だから、夕飯もいらない。  あんなアドバイスも、いらない。  なんにも。 「ほら」  そう言って、先生が俺の頭を軽く、優しく、ポンポンと撫でてくれた。 「おいで」 「……」 「って言っても、本当に、どうせ一人分だしって思ってたから、今日はロクなものがないけど」  手を繋いで、その手をブンブンと振りながら、俺を部屋へと招いてくれた。  腹が減ってると大体ネガティブになるんだよって言って、パスタを茹でて、レトルトのソースをかけてくれた。野菜がないから、食事のバランス的にはダメだろうけどって、言って、また明日、ちゃんとした飯を食べるようにって、まるで先生みたいに。  だから、先生みたい、って呟いたら、先生だっただろって笑ってくれる。  先生が明るく笑ってくれるだけで、気持ちが弾むくらいに軽くなった。 「撮影疲れただろ、泊まってくか?」 「……いいの?」 「もちろん、好きな時に来て、好きにしていいって言っただろ?」 「風呂、沸かすよ」 「ぁ……じゃあ」 「?」  どこが? 「じゃあ、一緒に入ったら、ダメ?」  どこが、ダメなんだよ。 「いいよ」 「!」 「もちろん」  どこをどうしたら先生との繋がりを切った方がいいみたいなことになんの?   先生がいるだけで、俺は嬉しいのに。  先生がいるから、俺は幸せなのに。  どこをどうしたら先生と別れた方がいいって事になれるわけ? 「おいで、志保」  先生がいない方が、ダメなのに。 「風呂、入るんだろ?」  なのに、なんで。 「うん」  あんなこと、言われなくちゃいけないんだよ。先生がいてくれるだけで、ほらこんなに気分が上がる。 「今日は、撮影、外だったのか?」 「あ、ううん。スタジオん中」 「よかったな。外、今日は寒かったから、中ならいいなって思ってたんだ」  先生、そんなこと思ってくれてたの? 俺が、昼間、仕事してた間。  先生に心配してもらって、気にかけてもらえたことに、感動していると、服を脱がされてしまった。  煌々と明るいバスルームで先生に服を脱がされて、もう何度も、この身体を抱いてもらってるくせに、急に気恥ずかしくて腕で裸を隠そうとしたけど。 「恥ずかしい?」 「そりゃっ」  腕を取られて、首筋に優しくキスをしてもらえた。 「綺麗なのに」 「っ」  それから今度は頬を両手で包まれながら、唇にキスをくれる。 「今日の撮影はどうだった? 俺はよくわからないから、あれだけど、大変なんだろうな。モデルなんて。バスタオル、志保が使うのこっちな。あ、この間、志保のポスター見たよ。あの化粧品の。うちの生徒も買ったって話してたよ。すごいな人気で。今日は、服の?」 「それも、あったけど、軽い撮影と、インタビュー」 「へぇ、すごいじゃないか。インタビューなんて」  そう、そのインタビューの前に撮影があって、その時。  ―― 早めに切った方がいいと思う。 「っ」  嫌な言葉、思い出した。 「俺の話はいいよ」 「志保?」  お風呂のに入る準備をしてくれてる先生の手を今度は俺が掴んで。 「話、するなら、先生のこと、聞きたい」  何してたの? 学校大変でしょ? また試験期間だもん。なのに来ちゃってごめんね。秋だから、イベントとかある? 残業いっぱい? 「俺のは、大した話ないよ」 「あっ」  キスが、落ちる。 「忙しいだろうけど、飯、ちゃんと食えよ?」 「た、べてる、よ、っ……ン」  胸に、唇が触れる。 「っ、あっ」  前を握られると、たまらない。 「ぁっ、あっ」  明るいところで、丸裸でつっ立ったまま、もうその気になってるそれを大きな手で扱かれて、簡単に硬くなる乳首を舌で転がされて、恥ずかしくて、溶けそうなのに、腰が、くねる。 「ン、先生っ、も」  ねぇ、俺一人じゃやだよって、先生の服をぎゅっと握ったら。先生が手早く裸になってくれた。 「……あ」  向かい合わせで、全裸。  ただそれだけで、頬が熱くてたまらないくらいに恥ずかしくて、興奮してる。 「先生」  かっこいい。  大好きな人の裸にうっとりと手を伸ばして、首筋、胸を撫でて、それから。 「っ、志保」  早く、俺の中、掻き混ぜて欲しい先生の硬くて熱いのを両手で優しく、握り締めて、その足元にひざまづいた。 「先生……の」  好き。先生が。 「ほひ、ぃ」  だから、早くセックスしたいって、それを頬張った。

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