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第67話 本物

 他所に行くなよ、なんて言ってもらえた。  行くわけないじゃん。他所になんて。  先生が好きなのに。  ずっとここにいたいのに。  ここ。 「志保」  この人の腕の中。  ここを独り占めしたくて、したくて、仕方がなかった。  高校生の時からずっと、別れて、もう会えないと思ってた時もずっと。  きっともう誰か別の人がいるんじゃん? なんて呟きが頭の中で聞こえてきても、知らんぷりをしてずっと。  いつも、誰かが隣にいた。  いつも、誰かに咎められそうな気がして、もどかしかった。  好きなのに。  ただ好きなだけなのにって。  でも、先生は俺ので。  俺は先生ので。  だから、きつくしがみついてもいいよね? 「あっ、ンンっ、先生っ」  肩をすくめて、先生の頭を抱え込んで、その唇に自分から食べてと敏感に硬くなった乳首を押し付けてる。  もっと、そこ、いじめて欲しくて仕方ないから。 「あ、やっ」  舌先で撫でられて、唇で吸われると、身体の奥がぎゅっと痛いくらいに切なくなる。もう片方を指で押し潰すようにされると、気持ちがほろほろに柔らかくなってく。  俺の先生。 「あ、気持ち、いっ」  先生を身体のすごく深いところで感じたい。 「もっと」  指じゃ届かないところ。  先生のしか、知らないところ。 「志保」 「あ、あっ……っ」  足を大胆に開くと、そんな俺を見つながら笑ってる。首を傾げたら、また笑って、ほら、と促すように身体を前に倒してくれた。だからその首にしがみつくように腕を回すと、深く、舌を絡めてキスをしてくれる。  甘くて、濃くて。  舌先が痺れるくらいのディープキス。 「ん、ふっ……は、ふ……ん、ンンっ」  このキスされると、ダメなんだ。先生の好きなようにされたくて、 たまらない気持ちになる。 「先生っ、っ、ンン」  お願い、早く、欲しいよって、媚びるような甘ったるい視線を向けると、手が下腹部を撫でてくれた。 「志保」 「ん、これ、欲ひ、ぃ」  その手を掴んで、長い指にキスをした。濡らすようにしゃぶりつくと、先生が眉をしかめて、口元を見つめてくれる。 「志保、そういうの、どこで覚えたんだ」 「ん、ふ、あっ」  一生懸命なだけだよ。 「全く」 「あっ、あぁぁっ……」  先生を誘惑しようと一生懸命なだけ。他の誰も知らないし、知らなくていいし、知りたいとか思ってない。  指が入ってくるだけで震えるくらいに気持ち良かった。長い指は、欲しくて火照ってる身体の中を撫でるように、一番気持ちいい場所を弄ってく。 「あ、そこ」  先生に教わった気持ちいい場所を指先で優しく撫でられると、腰が勝手に浮き上がって、勝手に揺れてる。 「あ、あっ」  長い指。学校で、黒板にスラスラと英語を綴るこの指を見つめて焦がれてた。すごく字が綺麗で、いつも授業中はうっとりしてた。だって、その時は、どんなに見つめてたって誰にも怪しまれることがなかったから。恋が溢れてても、誰にも咎められないから。 「ぁ、先生っの、指っ」  先生がしてくれるこの指だけ知ってたい。 「あ、ン……ン、ん」  先生がしてくれるこのキスだけ知っていたい。 「あっ、はぁっ」  先生の。 「志保」 「先生、このまま、がいいよ」  お願いって小さいな声で懇願した。 「特別、な」 「うん」  あ、ヤバい……かも。  すご。  ど、しよ。 「志保」 「っ」  見慣れた天井。慣れ親しんだ自分のベッド。  ね、だって、俺ここで何度も先生の指を、キスを、セックスを思い出しながらしてたんだ。一人で。もちろん、思い出す度に切なくて、恋しさばっか増えて、焦がれる気持ちしか大きくならなくて。寂しかったけど、先生以外が全然、無理でさ。たくさんここで呼んでたんだ。  先生、来てよって。  その先生が本当にここにいる。裸になって、俺にキスしてくれる。本物の先生が。 「先生」 「?」  本物の手が俺に触れてくれる。  本物の腕が俺を抱き締めてくれる。 「今日、無理、かも」  本物の先生が、抱いてくれる。 「俺、すぐイッちゃうかも」  焦がれた光景、なんだってば。 「だ、だって、俺、ずっと、その……なんか、自分の部屋に先生がいるっていうの、すごい変っていうか、あ、変じゃなくて、変なんだけど、そういう意味じゃなくて、ずっと、その、先生と、したこと思い出してっていうか、だから、破壊力が、すごくて」 「ここで?」 「っ」  そこで口元を綻ばせながら、キスをしてくれた。おでこのとこ。これ、苦手なんだってば。真っ赤になってる顔、丸見えになるから。 「じゃあ、今度、志保がここで俺としたこと思い出しながら一人でしてたの、見せてもらおうかな」 「は? 無理っ、絶対にっ、超ハズいからっ」 「俺も見せてあげるから」 「え?」 「志保のこと思い出しながら、してたよ。見たい?」 「!」  それは、すごい見たいけど。 「っぷ」 「!」  だから、やなんだってば。。思ってること、全部顔に出ちゃってんだって。 「何度もしたよ。志保のこと思い出しながら」  じゃあ、最初の時、あれ? ってならなかった。高校生の俺じゃないって。 「だから、あの夜が本当に嬉しかったし。俺の部屋でした時は感動すらした」  やっぱ、困る。 「志保が、本当に腕の中にいるんだって」  やっぱ、ヤバい。 「今も、感動してる」  そう言って、抱き締めてくれる先生を何度も想像してたこの部屋で、本当に抱き締めてもらえたら。もっと熱かったから、もう、蕩けて、溶けちゃいそうな気がした。

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