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ちゃんと恋人編 1 恋人同士

 一年前だったら、想像もしなかったな。 「……ぁ、すご。これもうオンエア始まったんだ」  目の前には巨大はパブリックビューイング。  そして、その画面の中には濃紺のリクルートスーツに身を包んだ自分がいて、こっちを見ては、ニコッと笑ってる。  新卒社会人向けのスーツの広告等に起用されたんだ。同年代として。  本当、一年前だったら、思いもしなかった。  自分があんなでかい画面の中にいることも。こうして――。 「へぇ、すごいな」 「! 篤樹さんっ!」 「すまない。待たせて」  ううん、全然、そう言って首を横に振ると、唇の端だけあげて笑ってくれる。 「少し、生徒に質問されて遅れた」 「ううんっ」  俺の、先生。 「腹、減ってるだろ?」 「うん!」 「行こうか」 「うん!」  想像もしなかった。こうして、先生と恋人になれるなんて。 「ほんと、お前って」 「?」 「なんでもないよ」 「え、何」 「なんでもない」 「何ってば。気になる」  先生の恋人になれたなんて。 「けど、すごいね。熱心な生徒」 「そうだな」  今日は、撮影の仕事がなくて、インタビューがひとつ入ってただけだった。大学後での撮影は遅くまでかかることもあって、なかなか篤樹さんと外食デートなんてする機会がなくて。だから、今日はすごく楽しみにしてたんだ。  普段は、篤樹さんのマンションに俺が上がり込む感じ。  俺の方が撮影なんかだと終了時間が読めなくて、約束できそうにないから。終わり次第、会いに行くっていうのが一番多いんだ。  だから、さっきみたいに待ち合わせること自体が珍しくて。それに加えて、俺が先に到着することもすごく珍しいから。 「どんな生徒? 女子? 男子?」 「……志保、少し水飲むか」 「え、大丈夫だよ」 「飲むペースが早い」  だって、はしゃいでるもん。  久々の夜デートに。 「ほら、水」  えぇ? って、ちょっと不貞腐れながらも、渋々その水を飲んだ。ペースが早いかはわからないけど、酔っ払ってて、ふわふわはしてるから。  飲んだら、その水の冷たさに、少しだけ頭がシャキッとした気がした。 「生徒は男子」  篤樹さんの声、低くて、セクシー。 「最近、入学した生徒で、日本と……どこだっけな、イギリスのクオーター。けど、見た目ほとんど日本人。だけどずっとイギリスで暮らしてたから日本語は全然」  あ、指、素敵だ。  グラスを握ってるだけなのに、なんかカッコよくて、見惚れる。  長いんだよね。篤樹さんの指って。長いから、すごく……。 「見た目が日本人にしか見えないから苦労するらしくて、だからか、頑張ってるよ」  すごく、気持ちぃ……。 「こら、志保」 「!」  うっとりとしてたら、頬を、そのグラスを握っていた指先が微かに触れた。冷たくて、一瞬で、パッと目が覚めて、パチパチと数回瞬きをした。 「聞いてるか?」 「! 聞いてるっ」 「だから、早く覚えたいんだと思うよ」  聞いてたよ。低い声がセクシーで、長い指にドキドキして。今日は久しぶりの夜デートだから。 「酔っ払い」  あとでたくさんしてもらえるかなぁって、思いながら、篤樹さんの声を聞いてたよ。 「あっ篤樹っ、さん、もっと、そこ、突いて欲し、いっ」  自分から背中を反らせて腰を突き出した。 「あぁっ……ン」  腰を両手でしっかりと掴まれながら、奥を強く貫かれて、気持ち良くて、中がぎゅっと篤樹さんのことを締め付ける。  頭の中が真っ白になるくらい激しくされるのが、すごく好き。 「あ、あ、ダメっ、篤樹さんっ、そこ、イっちゃうっ」  学校では壁の向こうを誰か通るんじゃないかって、扉を突然ノックされるんじゃないかって、どうしても気になって仕方なかったから。  声だって、こんなふうに喘いだりしちゃいけないから、いつも喉奥で堰き止めるようにしてた。それでも溢れると、ドキドキして。 「あ、篤樹さんの……あ、ダメ、そこ、気持ちっ、ぃ」  奥を小刻みにノックされて気持ちいいって声に出せるのがたまらなくて、しゃぶりつくみたいに締め付ける。もっと篤樹さんのが気持ちいいって喘ぎたくて。貴方にもっと興奮して欲しくて。  気持ちいい? ねぇ、今すごく。 「あ、ダメっ、乳首もされたら、もう、イッちゃうってば」  乳首をあの指に抓られて、甘い疼きに蕩ける。骨っぽくて、指先が少し硬いから。 「あぁっ、あ、あっ」  ぎゅっと摘まれると、中が締まっちゃうくらいに気持ちいい。もっと、そこをいじめて欲しくて、もっと責めて欲しくて、腰を揺らして、篤樹さんのを扱きながら。 「やらしい腰振り……」 「あ、だって」  振り返ると、興奮に火照って汗ばんだ篤樹さんが髪を掻き上げたところだった。膝立ちで、俺の腰をしっかり片手で掴んで、奥に押し込むようにしてるとこ。  かっこいい。  大好き。 「っ、志保?」 「あ、ン」  今、そんなに激しくしてないのに、中がキュッてしゃぶりついたから、篤樹さんが首を傾げた。 「先生……」 「っ」 「もっと、して」  久しぶりの先生呼び、興奮した? 「お前ね……急に、そっちで呼ぶなよ」 「あ、あぁっ、待っ……あ、あンっ……あっ」 「それでなくても」 「やぁっ、激しっ、いっ、そんなしたら、イッちゃうって」 「久しぶりに外でも会えて」 「あ、あ、ダメっ、ね、篤樹、さんっ、あ、イク、イクっ」  興奮してるのに、そう甘く囁いて、篤樹さんが俺を引き寄せる。もっと腰を深く押し付けて、奥いっぱいに。 「あ、そこっ」 「奥、挿れさせて」 「あっ、ダメ、イク、イクっ、あっ」  篤樹さんの太いのが俺の奥を刺し貫いた瞬間、深く、やらしい舌に舌先まで犯してもらえて。 「ンンンンンンっ」  あの指先に抓られて敏感に仕上がった乳首にまで飛ぶくらい、勢いよくイってた。 「あっ……篤樹、さん」  篤樹さんも、俺の中で、ゴム越しでも溶かされそうなくらい熱く、激しく、イってくれた。 「大好き」  気持ち良くてぎゅっと抱き付くと、俺も、って甘く囁きながら、硬いままの熱でまた俺の中をもっと責め立ててくれた。

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