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第5話
『ヤバい…癖になったらどうしよう!アソコに挿れるのさえ頑張れば… …ん?』
そこで真はある重大な事実に気がついた。
『頑張ればって…俺、挿れた?』
今更ながら慌てて再び記憶を辿った。
確か同衾したはずのローションが見つからず『脳内シュミレーション』に移行した…はず。
「…ローションは?」
未経験の自分がローション無くしてそこにブツを挿れる事はほぼ不可能だろうし、そもそもベッドを降りて机の上に置いたはずのソレを取りに行った記憶が…無い…。
…とてつもなく嫌な予感がする…。
だが敢えて短絡的な言葉を口にした。
「俺…寝ぼけてる…?」
余計な事を考えられなくなる程こんなに気持ちいいのだからもしかしたら自分でテーブルの上のモノを取って、ローションを馴染ませて上手く挿入したのかもしれないしもうそれしか考えられない!
さらにはそれが事実だと強く念じてみる。
「ん〜」
短く唸って目を開くといつの間にかカーテンの隙間からは陽の光が差し込んでいてとっくに夜は明け朝になっていた。
「遮光カーテン、いい仕事してやがる…」
姉が出ていってから休みの日にいつまでも眠れるように採光カーテンをやめ遮光カーテンを購入した。
二人で暮らしている間は休日の家事は当番制で休みの日もダラダラと寝過ごす事は許されなかった。
なぜなら当時この部屋は姉の持ち物だったから。
真は寝転んだ状態のまま手を伸ばしてカーテンを引っ張り陽の光を部屋に取り込んだ。
「今…何時…?」
太陽の光が部屋に入り込み時計を見ようとした途端にあらぬ方向から声がした。
「九時だよ、マコちゃん」
一人暮らしの室内に俺のものじゃない声がする…。
「だからく…」
「ぴぇ!」
不意に自分の他に誰もいないはずの室内に人の声。
ビックリし過ぎてベッドに横たえていた体が軽く十センチ跳ねたのは間違いない。
「だ、だ、だ…誰?」
上半身を中途半端に起こし掛け布団を脚に掛けて声のする方を向くと室内のベッドのすぐ側に男がいた。
『ひぇ〜誰!』
ほんのりと頬を赤らめた男は正座をしてこっちを見ている風だがベッドの下にいるのに視線が真と並ぶ位置にある所をみるとずいぶん上背があるようだ。
「驚かせて、ごめんなさい」
しょんぼりとした大型犬をイメージさせる姿だがしょぼくれてる顔には見覚えがあった。
最後に見た時はもう少し…いや、だいぶ幼なかったような気がするが…間違いない。
「え…と…翼?」
「…うん…」
嬉しさと戸惑いを混ぜこぜにした返事をしたのは実家の隣に住んでいた子供で天乃翼(あまのつばさ)…いや、もう子どもというサイズでも年齢でもない。
身長百七十二の真よりどう見ても大きい。
「え?どして?鍵は?」
「ミチコさんから借りてきた」
ちょっと眉毛を下げた困り顔。
あぁ、俺の機嫌を伺う懐かしい顔。
ミチコは真の母親で、歳は五十台半ば。
ややぽっちゃり体型の母親は社交的でいつもニコニコしている。
きっとお使いを頼むような軽いノリで翼に鍵を渡したのだろう。
数年ぶりに会った幼馴染。
真が就職してから実家にほとんど帰らずに過ごしている間、翼は男らしい体つきに成長していたようだ。
髪の色は生まれついたままの色合いでやや茶色がかっていて軽くウエーブしており少し目尻が垂れている。
翼の双子の片割れの空は見た目は翼と似ているが目尻がどちらかと言えば上がっていてシャープな印象だ。
顔立ちのせいか、もともとの性格のせいなのか…翼は優しくて社交的で誰彼構わず好意を寄せられやすい。
そして翼は真と違って子供の頃から根っからの陽キャだ。
「…あのさ、マコちゃんてさ…その…ううん、何でもない」
翼は視線を合わせたり外したりして、こっちまで気恥ずかしくなる。
「な、何だよ、言ってみろよ」
言い淀みながら視線を下げ、でも上目遣いで真を見る何か言いたげな翼の視線。
「…え…と、間違ってたらゴメン。…あの、マコちゃんて、もしかして…抱かれたい人?」
「…ッ!」
ヒュッと喉に嫌な空気が入り込みサーッと顔面から血の気が引く音が多分した。
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