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第9話
真の家は仲睦まじい両親と三つ違いの姉、四つ年下の妹の五人家族だ。
父親は真が小学校にあがる前から出張でしょっちゅう家を空ける忙しい人だったから女だらけの家の中で真の立ち位置は割と早い段階でカースト最下位に収まった。
しかし母はもちろん普段家にいない父親にも可愛がられていたおかげで姉と妹から理不尽な扱いを受けた記憶は無い。
だがチャンネル権やたまに帰省する父親のお土産の分配、外食の行き先などの決定権は真にはこれっぽっちも無かった。
出る杭になる気もさらさら無かった真は姉や妹に対して文句を言うこともなく、特に生活に不満を覚えもせず穏やかに過ごしてきた。
真が七歳の時に隣家に双子の男の子が生まれ「僕がお兄ちゃんになってあげる」と自ら彼らの世話を買って出たのが隣家との深いお付き合いの始まりだった。
新しい命を見て、きっと真のまだ始まったばかりの人生で何か思うところがあったのだろう。
本当の弟だと言っても過言ではないほど彼は双子の世話を焼き周囲が微笑ましく思うくらいに愛情を注いだ。
当然のことだが隣家の双子達、翼(つばさ)と空(そら)は甲斐甲斐しく世話を焼く真にとても良く懐き、慕った。
双子が初めて喋った言葉は「マコ」を意味する「ま〜」。
普通は「ママ」を指すのだろうが双子に至っては「ママ」を指す言葉ではなかった。
ちなみに言葉がしっかりした頃から双子は自らの母を宏美さん、と呼ぶようになる。
この辺りの言葉のセレクトは真に育てられたことに原因があるかもしれない…。
単語がで始めると「ま〜ちゃんあしょぶ」「ま〜ちゃんたべゆ」「ま〜ちゃんおふよ」と、すぐに二語話すようになり七年先を行く真をダッシュで追いかけるように心と体がすくすくと成長してゆき真が大学を卒業する頃まで実の兄弟以上に親密な月日を過ごした。
真も時間と愛情を注げば注ぐほどに双子から絶大な信頼を得て、同時にそれと知らず早期教育を施すのだから大人達の信頼も厚い。
真は時には兄のように、時には共働きの彼らの親代わり、またある時は家庭教師となり双子達と本当の家族以上の時間を過ごした、と思う。
だがそんな暮らしは多分に漏れずいつまでも続くことは無かった。
就職活動を機に真は突然実家に寄り付かなくなったのだ。
就職してからは実家を離れ慣れない仕事と家事に忙殺されたという事にしているが、本当のところは家族から恋人や好きな人はいるのかなどとプライベートな内容を四六時中聞かれるのが地味に辛くなったのだ。
真はヘテロと言えない自分のセクシャルな部分を家族に打ち明けられずにいた。
しかしただ一人、姉の静だけは真がヘテロではないことを知っていた。
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