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第10話
「マコちゃんは俺と一緒に暮らすの…嫌?」
眉尻を下げ困ったような顔をして翼が真に問う。
「嫌じゃないけど…俺家では寝るだけだからほとんど一人暮らしになっちゃうよ?」
と言ったもののそれは事実だが事実じゃない。
終電ギリギリになるほど忙しいのは繁忙期だけでそれを乗り切ればそこそこ定時退勤だ。
一人暮らしの寂しさは若干あるものの、そこには何事にも代えがたい自由がある。
あんな(エロいオモチャを使った)事をしたりこんな(エロいシチュエーションを想像した)事をしたり…時を気にせず全て自由に行える。
「それなら俺はやっぱりマコちゃんと暮らしたい。母さん指導のもと俺の家事スキルはこの三年で相当レベルアップしたから絶対にマコちゃんの役に立つよ?」
「レベルアップ…宏美さんならやりかねない…」
双子の母、宏美は手伝わざるもの食うべからず、男子も積極的に厨房に立つべし、という信念を持った女性だ。
真が生まれたばかりの双子の世話をすると言った時も「了解」と言って子供にも出来るように赤子の世話を指導してくれた。
もちろん安全に配慮してくれた上でオムツ替え、ミルクの世話、入浴までもさせてくれた肝っ玉母ちゃんなのだ。
今振り返れば宏美さんが職場復帰した時に役立つように真が彼女に育てられていた可能性は否定できないが…。
そしてしばらくぶりに会った翼はかつて真が手塩にかけて大切に育てた幼馴染。
小中学校でも背は高い方だと思ったが…もう真よりも大きく逞しく育っていた。
そして誰が見てもイケメン。
『ちょっと見ない間にこんなに立派になっちゃったんだ…』
「マコちゃん?」
「あー…ちょっと昔を思い出してた」
小さな頃は双子の天使と呼ばれていた翼と空。
可愛くて素直で「マコちゃん大好き」と言って俺を慕ってくれた可愛い双子。
「マコちゃんは俺と空の育ての親だから」
「何だそれ」
「だからここに住まわせてもらえる限りマコちゃんの事、全力でサポートするよ」
確かに食事や身の回りの細々した事はめんどくさいし翼の言葉は非常に魅力的だ。
だが一度しかない翼の青春は翼自身のために使って欲しいし快適な一人暮らしをそう簡単に手放すことは出来ない。
「自分の身の回りくらいは出来るし」
真はこの歳の男子としては驚くほどに家事が得意だ。
姉と暮らしていた時も炊事と洗濯は真が率先して行うほどに。
「でもさ、忙しいでしょ?掃除のいき届いた綺麗な部屋と温かくて美味しい食事とか魅力的じゃない?」
「まぁ…」
「それにさ…俺偏見とか無いからマコちゃんがやってみたい事にも協力してあげられるよ?」
にっこりと微笑んだ翼に真の背筋はふるりと震えた。
『翼が思う俺がやってみたい事って…やっぱり…この事だよな…』
真のお尻にインしたコレ。
随分と悩んだ末に意を決して通販サイトで購入したものだ。
『相手がいないのならその代わりを手に入れればいい』
早い段階でそう思ったが『上手くいくのか』という疑問と『上手くいったらいったでそれでしか満足出来なくなるのではないか』という底知れぬ不安が湧き上がりなかなか行動に移せないでいた。
同居していた姉が引っ越したのはいいタイミングだったのかもしれない。
しかし正確に言うならば真がやってみたい事の最終形態はコレではない。
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