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第22話 護衛団九十九・六黒

 床に転がる智颯と瑞悠、それに円を順番に眺めると、美鈴がニンマリと満足げな笑みを昇らせた。 「やっぱ、余裕だったよねぇ。13課っていっても、所詮はただのガキって感じぃ。ねぇ六黒、早く峪口君と花笑くんの精子取ってぇ」  奥の部屋から六黒が現れて、居間の光景を眺めた。  六黒の背中からは長い触手が何本も伸びている。その先が太くなったり細くなったり動いて、気色が悪い。 「捕まえたんだ、早かったね。ならば、始めようか。奥の部屋を使うよ?」 「いいよぉ。私は二階で千晴所長と槐様に連絡してるからぁ。槐様、喜んでくださるかなぁ?」  六黒が円に近付いて、顔を覗き見る。 「どうだろうね。美鈴は槐様が好きだね」 「大好きだよぉ。槐様の精子ほしいくらい。種付けしてくれないかなぁ」  うっとりとスマホを握り締める美鈴は、恋する女の顔をして見える。  その姿には目もくれずに、六黒が円と智颯の口に触手を突っ込んだ。 「んんっ、ぐっ、ぁ、はぁ、ぁぁ……」  たっぷりと淫水を飲まされて、円の目がまた虚ろに笑んだ。  体がびくびくとしなって、股間が盛り上がっているのがわかる。 「やっぱり草は強いなぁ。さっきも沢山、飲ませたのに、もう耐性が出来そうだよ。早くしないとね」  同じように淫水を含まされた智颯の顔も緩んで、勃起しているのが服の上からでもわかった。 「他の13課が来ても厄介だから、結界を強くしておくね。入れなくなるから、二人とも外に出ないようにね」  欲しい返答が来なかったことに、むっと顔を顰めながらも、美鈴は保輔を振り返った。 「ヤスは瑞悠ちゃん、よろしくぅ」  ぽんと肩を叩いて、美鈴は二階へ上がっていった。  六黒が円と智颯を触手に絡めて持ち挙げる。 「焦らして溜めてから取ってな。その方が精液内の精子の濃度高いさけ。最低五回分はサンプルや。うち良品三つを理研に高ぅ買ぅてもらう」 「それ以降は、食べていいのかい?」  六黒が欲情した目で舌舐め擦りした。 「好きなだけ喰いや。二人とも若いし、ようけ出せるやろ。たっぷり気持ち悦くしたってや」 「楽しみだね。惟神と優秀な草の精子。精液だけでも美味しそう。味見してから待ち遠しかったよ」  六黒が保輔を振り返った。 「その子にも俺の淫水、飲ませておこうか?」  保輔が瑞悠の体を抱き上げた。 「いらんよ。俺が遊ぶのやから、俺のフェロモンで靡かせるわ。それより円は大丈夫なん? 俺の精子たっぷり飲んどるし、効果切れてないで」 「問題ないよ、俺の淫水は本能から欲情を煽るだけだから。誰が好きだろうと、どうでもいい。感情をどうにかしたくなったら、頭をいじるさ」  六黒が自分の耳を指さした。 「いじり過ぎて、壊さんといてな。その二人は精子以外にも利用価値あるよって」 「心得たよ。それにしても、俺の生態を良く知っている保輔らしからぬ質問だったね。何か不安でもあるの?」  保輔の心臓が、少し鼓動を速めた気がした。  抱かれた瑞悠の耳が胸に当たって良く聞こえる。 「俺の精子の効果切れてへんかったら、どうする気か知りたかっただけや。壊されたら、困るよって」  探るような六黒の視線を、保輔はうまく躱しているように見えた。 「なるほど、人の出方を窺ってから行動に出る保輔らしい会話の持っていき方だね。あくまで相手が自発的に動くのを待って、総ては自分の決定だと思わせる。巧みな思考の誘導だ」  六黒に向かい、保輔がちらりとその顔を窺った。 「そっちこそ、今更やん。何が言いたいん?」 「いや、美鈴を上手に使っているなと思ってね。反魂儀呪は美鈴より保輔を高く評価しているよ。bugsは美鈴じゃなく保輔がリーダーだからね」 「そら、どうも。俺は美鈴のお人形や。実質のリーダーは美鈴やけどな」  六黒が、くっくと笑った。 「人形でいる気なんかないくせに、よく言うよ。確かに、今回の作戦はあくまで美鈴の提案だけど、保輔は乗り気じゃない割に巧くやったよね。槐様はその辺り、評価してくださっているよ」 「へぇ、有難いなぁ。槐様こそ、理研に関わりとうないのに護衛団の六黒を貸してくれて、気前ええなと思ったわ」  また、保輔の心臓が跳ねた。  瑞悠は保輔の胸にちょっとだけ耳を押し当てた。  そんな瑞悠を、保輔がちらりと見下ろす。 「俺は監視だよ、気付いてただろ。君たちがどの程度、使える駒か判断するためのね。槐様の判断は、美鈴を切り捨て、保輔を拾う、だ。槐様はmasterpieceよりblunderがお好みのようだよ」 「せやろな」  短く放った保輔の言葉に、感情はなかった。 「まぁ、槐様にとって惟神の精子がどうでも良くても、や。理研絡みの依頼である以上、俺らは惟神の精子採取して提出せなならん。終わるまでは協力してや」  抱かれた瑞悠の視線からは、保輔がとても面倒そうな顔をして見える。 「勿論だよ。沢山気持ち良くして、上手に取ってあげるから、安心して。保輔も引き続き、上手くやるといい。この件が成功で終われば、反魂儀呪でのある程度の地位は約束してもらえるよ」  六黒が満足そうに笑んだ。 「気前のええ話やね。俺みたいな霊能カスでも、槐様は欲しがってくれんねや?」  保輔が吐き捨てた言葉を、六黒は笑い飛ばした。 「保輔が自分をどう思っていようと、理研が決めたcodeが土蜘蛛だろうと、槐様には関係ないさ。むしろ保輔をblunderとしか判断できない程度だから、槐様は理研がお嫌いなんだよ」  保輔が六黒を振り返る。  六黒はそれ以上は何も言わずに、智颯と円を抱え直して、奥の部屋に消えていった。

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