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第51話【R15】役行者の前鬼
直桜は天狗の案内で更に奥の個室に向かった。
「今年は鬼神の活躍が大変に話題になりましたなぁ」
「そうみたいだね。ちょっと、びっくりしたよ」
天狗の話もやはり護の話題だ。
正直、禍津日神の儀式の事件が神世にまで噂になっているとは思わなかった。
「我々、天狗も鬼同様に強き妖怪なのに、話題になることはそう滅多にありません。羨ましい、妬ましい」
黒い言葉が出てきて、ドキリとする。
「あのさ、前鬼は天狗なの? 鬼なの? 名前は何て言うの?」
とりあえず本人の話題を振ってお茶を濁すことにした。
「元は鬼でございます。役行者様と共に修行に明け暮れ妖力を蓄えて天狗となりました。名は那智滝本前鬼坊、昔は那智と呼ばれておりました」
「そうなんだね。熊野とも何か所縁があるの?」
「今の住処が近いものでして、大峰山と熊野の間くらいでしょうか。下北山村という場所です。昔は四季も共に住んでおりましたが、今は別の場所で、近世は、忍様の御傍に。妬ましい、羨ましい」
どうやら、どこに会話を持っていっても妬みが出るらしい。
仕方がないので放置することにした。
「忍のこと、大好きなんだね」
「当然です。ですが私も四季も、今は互いに一族を統べる身の上、お助けしたくとも叶わず。四季は……」
また忍の傍にいられて羨ましい妬ましいになるのかと思いきや、違った。
「一族が絶え、己の死を待つばかり。それまでの短い間、最期に忍様の御傍に仕えると決めたのだと。悲しい、本に悲しい。何故、四季が最初に逝ってしまうのか。悲しい」
その背中には妬みを語った時にはみられなかった哀愁が降りていた。
声が掛けられず、立ち尽くす。
突然、那智の姿が八頭身の男性に変わった。
「小さき姿でいると、気持ちが病んでいけませんな。御見苦しい姿をお見せしました」
振り返った那智が天狗の面を外す。
一見して華奢な、直桜と背丈の変わらない青年のような風貌に、驚いて言葉が出なかった。
(後鬼の四季が厳つくて大きいからか、前鬼の那智は小さくて可愛い感じだな)
那智が個室の戸の前で足を止めた。
取っ手に手を掛けて開きながら直桜に顔を向ける。
「ささ、こちらの個室でございます。神世の酒とはいえ、さすがに宴でお疲れだったので、四季がこの部屋まで忍様を運んだので、す……」
「ぁ、はぁ……ぁ、ぁんっ」
明らかに喘ぎ声だな、と思うような音が聞こえて、那智と直桜は固まった。
「四季……、食事は、まだ、終わらんか……んっ、ぁぁっ」
「もう少しだけ、いただければ。神世であれば忍様の法力も落ちますまい。御神酒があればすぐに回復いたしましょう。今のうちに、吸わせてください」
薄く開いた扉の隙間から、奥のベッドらしき場所で重なる二人の姿が見えた。
忍に覆いかぶさった四季が忍の股間に触手を伸ばして《《食事》》をしている。
「わかっ、た……、ぁ、ぁぁっ、はぁ……んっ、そんなに擦ったら、ぁっ」
「耐えてくださいませ、すぐに済みますので」
「もう、何回もっ、ぁ、ぁっ、四季っ、気持ちぃぃ……」
忍の腕が四季に伸びて縋り付いた。
「お可愛らしい……、忍様が、可愛らしくて、終われませぬ」
「そろそろ、終えてくれ、ぁっ、那智が戻るやも……、ぁぁっ、んっ」
忍の唇を貪って、四季が恍惚な表情をしている。
「もう少し、御尊顔を拝見いたしたく。主様、なんと可愛らしい……」
「四季、ダメ、だ、も、出な、いっ、んっ……ぁぁっ……」
「沢山、出ていますよ。溜まっておりましたか。現世ではこの四季がお相手を致します故……」
那智がスパン、と扉を閉めた。
「アイツ、さっさと死ねばいいのにな」
さくっと怖い言葉を言って、那智が舌打ちした。
さっきの悲しい発言は何だったのだろうと思うレベルの冷めた顔だ。
状況的に仕方がないと思うが、大きくなっても毒舌は変わらないんだなと思った。
「どうにも取り込み中の様子です。また後程、お声掛けいたしましょう」
眉を下げて笑う那智の顔が怖い。
一通り覗いてしまったから、直桜も那智のことは言えないが。
「そ、だね。今は絶対にダメだね」
忍の絶対に見てはいけない姿を見てしまった気がした。
とりあえず自分の胸に仕舞っておこうと思った。
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