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「ご……めんなさい……! 本当にごめんなさい! 鐘崎さんのことが好きだったから……一度でいい、あの人の恋人になってみたかったみたかった。でも絶対に振り向いてもらえないことも分かってました。だから……睡眠薬を盛って、一瞬だけでも……夢でもいいからあの人と触れ合ってみたかったん……です」
戸江田は眠った鐘崎の衣服を剥いで、その姿を見下ろしながら自慰行為に耽ったことを素直に暴露した。
「あの人を見つめながら……自分を慰めました。あの人の意識が無いのをいいことに、添い寝もしました。でもそれだけです! それ以上は何もしていません! それだけ……。ほんとはあの人と身体だけでも繋がってみたかった。でも……実際にあの人を目の前にしたら怖くなったんです。畏れ多くて……自分のしてることがものすごく醜く思えて、触ることができなかった。せめて添い寝だけでもって思って、あの人の隣で横になった……。長い間憧れてやまなかったあの人の顔を見ながら、ただ近くにいられるあの瞬間が幸せでした。決して僕のものにはならないって分かってたけど……どうしても思い出が欲しかった……んです」
そして、紫月に言い当てられたこともその通りだと認めた。
「鐘崎さんと僕が裸で抱き合ってるところをあなたに見せつけて……あなたが嫉妬してくれればいいと思ってました。あなたは彼を責めて、二人が喧嘩になって……できることなら別れてくれればいいとも思いました。あなたの言う通りです。でもまさか……」
まさかあなたが嫉妬すらせずに僕とこんなふうに向き合ってくれるとは思いもしなかった――。
あなたのようないい男でもそんな悩みや苦しみを抱えて生きてきたなんて思いもしなかった。
戸江田は号泣しながら床に突っ伏しては申し訳なかったと言って、何度も何度も頭を下げてよこした。
「僕には――どう転んだってあなたのような……大きい心の人間には……到底なれません。今は――自分が自分で大嫌いです。自己嫌悪でいっぱいです……! 鐘崎さんにも……どう謝ればいいか……本当にごめんなさい……!」
「いいよ。あんたが今俺に言ってくれたことは遼二に言ったも同じことだ。だからもう頭を上げてくれ」
「紫……月さん……。ごめん……なさい。本当に俺……」
もっと早くにあなたと出会っていれば――違った見方ができたでしょうか。こんな浅はかなこともせずに済んだでしょうか。自分も他人も、もっと大切にできたでしょうか。
すみませんでした――何度も何度もただひたすらにそれだけを繰り返して泣き崩れる男を、周も、そして李らもそれ以上責める気にはなれずに切ない笑みを浮かべ合うのだった。
◆ ◆ ◆
その後、社長の到着を前にマカオの支社から代理の者が飛んで来て、戸江田は彼らに引き取られていった。
代理の者たちに詳しい経緯は分からなかったようだが、戸江田が勝手に社長の別荘に鐘崎を呼びつけたことに恐縮し、気の毒なくらいに頭を下げて帰っていった。紫月らもまた、周の邸へと向かいながら、未だ熟睡中の鐘崎を囲んでいた。
「けど、良かったのか? マカオ支社の連中に本当のことを言わねえまんまで」
ニヤっと不敵な笑みを瞬かせながら周が言う。
「ま、遼にも実害は無かったわけだしな。何でもかんでも暴露すりゃいいってもんでもねえべ」
紫月は大事そうに鐘崎を自らの肩で支えながら笑う。
支社の連中に本当のことを暴露すれば、あの戸江田が社に居づらくなるのは必須だ。だから敢えて事実を口にしなかった、そんな紫月の思いを誰もが切なく――そしてあたたかく思ってやまなかった。
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