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「俺も同じだった。ガキの頃からお前が好きで――だがどうしても言葉に出して伝えることができなかった。この想いが叶わなかったらどうしよう。叶わねえくらいなら、いっそダチのまま、幼馴染のままでいい。気持ちなんざ伝えなくてもいい。ただただおめえの側にいられるなら一生このままでいい、そう思ってた。俺はおめえよりも遥かに意気地がなかったからな、おめえが愛した誰かを一緒に愛そう――なんて次元には到底到達できなかったが。それでも生涯お前だけを想って生きようと思ったことは本当だ。肩に、お前が生まれた日に満開だった紅椿を背負うことで、お前は俺だけのもんだと思おうとした。この肩の紅椿だけは生涯俺の側から離れることはない。仮にお前が他所の誰かと幸せになったとしても、俺が愛するお前はこの肩の上で俺だけを見つめてくれる――そう思って」  紫月のように愛する相手を一緒に好きでいよう、お前が幸せならば俺も幸せだ――鐘崎には到底そんなふうに思うことはできなかったという。 「俺は強欲で、おめえが他の誰かと結婚なんかしたら――おそらくてめえを抑制できずに荒れたと思う。あの戸江田のことを責められる筋合いなんかなかったろうし、ともすればお前の気持ちを無視して強引に踏みにじるか――あるいは自暴自棄になっててめえを失うか、そんなふうに荒れただろう。意気地も覚悟も無え、そんな男だ。だから氷川からお前が戸江田に言った思いを聞いて――堪らない気持ちになった。俺のような身勝手な野郎がおめえのような尊い人間に想ってもらえるなんて奇跡でしかねえと思った」 「遼……。バッカ。ンな大袈裟な。俺が尊いなんざ、ンなこと言ってくれんのおめえだけだって」 「そんなことはねえ! 俺自身はもちろん、氷川も李さんたちも皆んなそう言ってた。なあ紫月、俺ァ時々怖くなるんだ。俺はお前を愛しているし、この想いは誰にも負けねえって思ってもいる。だが、お前が俺を想ってくれる思いに比べたら――俺のはなんて強欲で我が侭なんだろうかって。こんな独占欲の塊のような男に愛されて……おめえは本当に幸せなのかって」  紫月のように広い心でものを見ることもできないし、慕う気持ちも欲もすべてを剥き出しにせずにはいられない。嫉妬も人一倍で、愛とは名ばかりに縛り付けているだけではないのかと――。 「こんな俺だ。あの戸江田の気持ちも――分からなくはねえって思っちまってな」  まるで甘える赤子のように胸板へと頬を擦り付けながら、『どこへも行かないでくれ、こんな俺を嫌わないでくれ、側にいてくれ、俺を愛していてくれ』という心の叫びを必死に堪えているようだ。そんな亭主のすべてを包み込むようにその頭を抱え込み、少し癖の強い髪を撫でながら、紫月は穏やかな笑みで応えた。

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