23 / 66
22
「俺は昔っからおめえ以外は目に入らんしな」
嬉しい言葉をさらりと言うが、どうにもこの亭主は自分の想い以外には無頓着過ぎる。困ったものだと思いつつも、お前以外は目に入らないなどとは言われれば、嬉しくもくすぐったい思いがしてならなかった。
「ったく! 相変わらずなんだからよぉ、遼……」
「今後は気をつけるさ。それよりも紫月――あんなことがあった後だ。浄化――なんて言やぁ言葉が悪いが、おめえでリセットさせて欲しいんだがな」
コツリ、またひとたび額と額をぶつけては、視界に入りきらない位置で揺れている視線が無言で訴えてくる。ゆらゆらと黒曜石の瞳の中に熱い炎が点 って見えるようだ。欲情という名の炎である。
「バッカ、遼……」
「ああ、バカな亭主だ。薬食らって爆睡して、なんも覚えてねえ――なんていうとんだ抜け作だ。ついさっき電話で親父にもコンコンと説教食らった」
「親父 っさん怒ってた?」
「まあな。コーヒーに入れられたのが催眠剤だったから良かったものの、下手したら今頃はあの世だったかも知れねえって」
バツの悪そうに頭を掻いて苦笑いしているが、確かに父の言う通りだ。
「ほんと、笑いごっちゃねえよな」
「親父には一から修行のし直しだって雷落とされたわ。だが、これだけは伝えておきてえ。どんなことが起ころうが、例えば天地がひっくり返ろうが――俺が想うのはこの世で唯一人。おめえしかいねえ」
「バッカ……なに急に」
「大真面目だ」
遼――。
「分 ーってるって。俺だっておんなしなんだから……さ」
俺はお前で、お前は俺で。
お前が心底望むことなら俺が望むのも同じこと。
あの戸江田にも言ったが、あれは紛れもない本心だ。
お前がしたいと思ったならば、それが浮気であろうとただの戯れの火遊びであろうと構わない。俺も一緒に浮気して、一緒に火遊びに付き合ってやるさ。
そんでもって二人でバカやっちまったなって笑い合えばいい。しようもねえヤツだよなって突っつき合えばいい。
「言ったべ? 俺ァどんなことがあってもおめえだけのモンだ。おめえも俺だけのもん。だって俺たちは――」
「一心同体の夫婦なんだから――だろ?」
「そ! 分かってんじゃん」
「じゃあ……分かるな?」
今の俺がどんな気持ちでいるか。
何を望んでいるか。
もう抱きたくて抱きたくて仕方ないって、この熱情を抑え切れなくなってることが――!
そんな言葉に代えて、深く濃い口づけに奪われた。息もできないほどの激しく強い口づけだ。
手を取られ、誘われた先には硬く欲情した凶暴なほどの雄――。彼自らローブの下のブリーフに手を突っ込んでは硬いそれを握らされた。
ともだちにシェアしよう!