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「俺は昔っからおめえ以外は目に入らんしな」  嬉しい言葉をさらりと言うが、どうにもこの亭主は自分の想い以外には無頓着過ぎる。困ったものだと思いつつも、お前以外は目に入らないなどとは言われれば、嬉しくもくすぐったい思いがしてならなかった。 「ったく! 相変わらずなんだからよぉ、遼……」 「今後は気をつけるさ。それよりも紫月――あんなことがあった後だ。浄化――なんて言やぁ言葉が悪いが、おめえでリセットさせて欲しいんだがな」  コツリ、またひとたび額と額をぶつけては、視界に入りきらない位置で揺れている視線が無言で訴えてくる。ゆらゆらと黒曜石の瞳の中に熱い炎が(とも)って見えるようだ。欲情という名の炎である。 「バッカ、遼……」 「ああ、バカな亭主だ。薬食らって爆睡して、なんも覚えてねえ――なんていうとんだ抜け作だ。ついさっき電話で親父にもコンコンと説教食らった」 「親父(おや)っさん怒ってた?」 「まあな。コーヒーに入れられたのが催眠剤だったから良かったものの、下手したら今頃はあの世だったかも知れねえって」  バツの悪そうに頭を掻いて苦笑いしているが、確かに父の言う通りだ。 「ほんと、笑いごっちゃねえよな」 「親父には一から修行のし直しだって雷落とされたわ。だが、これだけは伝えておきてえ。どんなことが起ころうが、例えば天地がひっくり返ろうが――俺が想うのはこの世で唯一人。おめえしかいねえ」 「バッカ……なに急に」 「大真面目だ」  遼――。 「()ーってるって。俺だっておんなしなんだから……さ」  俺はお前で、お前は俺で。  お前が心底望むことなら俺が望むのも同じこと。  あの戸江田にも言ったが、あれは紛れもない本心だ。  お前がしたいと思ったならば、それが浮気であろうとただの戯れの火遊びであろうと構わない。俺も一緒に浮気して、一緒に火遊びに付き合ってやるさ。  そんでもって二人でバカやっちまったなって笑い合えばいい。しようもねえヤツだよなって突っつき合えばいい。 「言ったべ? 俺ァどんなことがあってもおめえだけのモンだ。おめえも俺だけのもん。だって俺たちは――」 「一心同体の夫婦なんだから――だろ?」 「そ! 分かってんじゃん」 「じゃあ……分かるな?」  今の俺がどんな気持ちでいるか。  何を望んでいるか。  もう抱きたくて抱きたくて仕方ないって、この熱情を抑え切れなくなってることが――!  そんな言葉に代えて、深く濃い口づけに奪われた。息もできないほどの激しく強い口づけだ。  手を取られ、誘われた先には硬く欲情した凶暴なほどの雄――。彼自らローブの下のブリーフに手を突っ込んでは硬いそれを握らされた。

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