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「な、戸江田っちにも……これ触られた?」
「さあな。爆睡してたから分からんな。――ってか、お前……″戸江田っち″って」
そんな呼び方ひとつにしても紫月の大らかさが分かるようだが、さすがに苦笑せざるを得ない。
「だ、だよな。ヤツも見ただけで舞い上がっちまって、触っちゃいねえって言ってたし」
まあ戸江田の言うことを鵜呑みにはできないが、おそらく嘘をついてはいないのだろうと信じながら「へへっ」と苦笑いが浮かんでしまう。
「ったくよー、こいつは俺だけのモンなんだから。やたらに触らせんじゃねって」
「不可抗力だ。だがな、氷川の話じゃ全っ然反応してなかったってことだからな。例え触られたとしてもおめえ以外じゃ勃たねえコイツはやっぱり良くできた俺の息子だわな」
しれっとそんなことを言う鐘崎の口ぶりには呆れるが、本人は案外大真面目のようだ。
「なーにが良くできたムスコだよ……。第一おめえ、爆睡してたんだから当然だべ?」
「いや――例え爆睡しててもおめえに触られりゃすぐに勃つさ」
「バカこいてんじゃねって! ッと、しょーもねえ」
なんだか可笑しくなって紫月は笑ってしまった。
実のところ、もしも紫月が今回のような目に遭わされたら、それが未遂でも鐘崎としては正気でいられないほど激怒してしまったことだろう。自分が服を剥かれようが陵辱的な目で視姦されようが大して気にはならないが、紫月が同じことをされたなら到底赦し置けないと思うのだ。
紫月とてまるっきり冷静でいられるわけではないだろうが、それでも鐘崎よりはほんのわずかでも大きな物差しで事態を受け止めることができたのは、同じ男性同士で想い合うという上で、抱かれる方と抱く方の意識の違いなのかも知れない。
「……ったく! とにかく無事で良かったわ。んじゃとりま″浄化″してやっから」
紫月は切なげに笑いつつも、立派な体格の亭主をベッドへと倒した。
ローブを開き、天を仰いでいる雄を握り込んではそっと唇を寄せる。既に先走りで濡れ始めているそれを舌先で絡め取り、一気に口に含んで舐め上げれば、
「……ッと、紫月……」
堪らないというローボイスの嬌声が背筋に欲情を走らせた。
おそらくはあの戸江田もこんなふうにしたかったに違いない。見ただけで触れてはいないと言ってはいたが、もしかしたら嘘かも知れない。実際は触れて、頬擦りくらいはしたかも知れない。今となっては戸江田のみぞ知ることだ。
だが、どうであれもういい。鐘崎がこうして欲しいと望み、実際にこうさせてくれるのはこの世で唯一人、自分だけと分かっているからだ。
なあ、遼。お互いに想い合うって――当たり前のように思えて、ホントは奇跡っていえるものなのかもな。
今こうして温もりを預け合える瞬間が夢のようにも思える。
だからこそ大事にしたい。
互いの愛情に慣れて我が物顔になる、それが当たり前の幸せであるのも事実だが、想いを告げ合った頃の――もっと言えば想いを告げ合う前の甘苦しい胸の痛みやざわつきも忘れずにいたい。
今回、戸江田という男が見せた――道を踏み外すほどに狂おしいまでの悩みや想いを目の当たりにして、片想いだった頃の様々な感情を振り返ることができたように思う。
今この時を当たり前だとは思わずに、大事にして生きていこう。
紫月は強く強くそう誓うのだった。
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