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一方、鐘崎 らの方では埠頭の倉庫へと踏み入れたところだった。コンテナごと積み上げられる造りになっている倉庫は巨大で、とにかく広い。中は幸いか常夜灯が点いているので真っ暗闇というわけではないが、どこに冰 が拘束されているのかは一目見ただけでは見当がつくはずもない。
「相手が何人いるかは分からん。紫月 、くれぐれも用心してかかれ」
「分かった」
紫月 はいつでも応戦が可能なようにコートの前を開け、持参してきた日本刀に手をかけて一歩ずつ地面を踏み締め進んだ。
まずは既に自分たちが事態を把握しているということを冰 に知らせる為、打ち合わせ通りに普段と真逆の話し方で呼び掛けてみる。
「冰 君? いるんだろう? 鐘崎 だ。迎えに来たよー」
鐘崎 がやさしい声色を使ってゆっくりとした口調で言う。その直後に今度は紫月 が少々荒っぽい喋りをしてみせた。
「おい、こら冰 ! てめえ、また周焔 と喧嘩やらかしたそうだな! 意地張ってねえで出てきやがれ!」
――と、 しばしの後、
「はん! 鐘崎 さんかよ! 周焔 は? なんで本人が来ねえの!?」
倉庫の奥の方から思った通りの返答が返ってきて、二人は視線だけで上手くいったことを確かめ合った。
冰 もまた、普段からは似ても似つかない乱暴な物言いで怒鳴ってよこしたのだ。
「周焔 は家でキミを心配してるんだよー。いいから出て来ておくれよ。冰 君ー?」
「ふん! 誰が出て行くかよ! 周焔 の野郎、自分じゃ迎えにも来ねえってか!? しかも来たのは″二人″ってさー! あいつってば、″二人″も迎えによこすなんてマジでバッカじゃねえの!? あんたらも余計な節介焼いてねえでとっとと帰れよ! 俺はぜってえ帰ってなんかやんねえかんな!」
この返答で鐘崎 らには冰 を拘束している連中の人数が二人だということの見当がついた。冰 が言った「二人」というところだけ重複しているし、そこだけが強調された喋り方だったからだ。
「敵は二人だな」
「ああ。冰 は相変わらずに頭の回転が早い」
向こうが二人ならば押さえるのはそれほど苦ではない。ただし、冰 は当然手脚の自由を奪われているだろうから油断は禁物だ。鐘崎 らはもう一度呼び掛けてみることにした。
「冰 君、そんなこと言わずに一緒に帰ろう。周焔 も心配しているんだよ。キミに悪いことをしたって落ち込んでいてね。それで俺たち二人が迎えにやって来たというわけなんだ」
「そうだぞ、冰 ! あんま我が侭こいてっと、終いにゃ首に縄つけて引きずって帰るぞ!」
すると再び乱暴な返事が飛んできた。
「うっせー! あんたらもあんたらだ! 周焔 なんかの為に上手く使われちゃってさ、こんな大雨の中わざわざ迎えにくるなんてバッカじゃねえの? いいから早く帰れよ! 俺を捕まえようったってそうはいかねえぞ! こっちに来たら舌噛んで死んでやるから!」
つまり側に来るな――という意味である。敵は確実に銃などの危険な武器を手にしていることを示している。ある程度近付いた段階でいきなり仕掛けてくるに違いない。紫月 は日本刀に、鐘崎 は銃に手をかけながら進んだ。
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