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「と言って、このままあんたらに殺 られちまったんじゃ元も子もないでしょうが。それよりはガッポリ入るあの莫大な財産を手にした方が利口ってもんだ。正直惜しいには違いないけど命あっての賜物だからね。金でカタをつけてやろうって言ってんの! それに――なんと言っても周焔 の財産だぜ? 例え一割だって相当な額だ。一生遊んで暮らせるぜ?」
男たちは七割方気持ちが動いたようだ。
「本当だな? 本当に遺産を分けてもらえるんだな?」
「もちろんだよ。約束する! 僕だってもう危険な目に遭うのは懲り懲りなんだ。周焔 から解放されても、あんたらに追っ掛け回されたんじゃ今の二の舞だわ。だから約束は必ず守る! そん代わり、金を受け取ったら僕とあんたらは赤の他人だ。その後はお互いに干渉しねえって約束してくれよ?」
「……いいだろう。お前こそ約束を違 えるなよ?」
「了解! そんじゃ商談成立だね。ってことで、とりあえずコレを外してよ」
冰 は腕に付けられている爆弾を指差して笑った。
「……よし、手を出せ」
「さんきゅ! あー、安心したー。ほんっと、生きた心地しなかったよ」
グリグリと肩を回しながら伸びをする。
「そんじゃひとまずあの二人をやっつけよっか!」
鐘崎 と紫月 のやって来る方向に視線をくれながらニヤりと笑ってみせる。
「あ、ああ……そうだな」
「僕が上手く呼び寄せるから、あとは上手くやってよね!」
「……分かった」
冰 は自分の前に男たちを突き出すようにして彼らの後ろ側に回り込むと、大声でこう叫んだ。
「鐘崎 さん、いる? あんたたちの顔を立ててやっぱり帰ってやることに決めたよ!」
すぐに鐘崎 から返事が返ってきた。
「冰 君、本当かい? じゃあ一緒に帰ろう。どこにいるんだ? 出ておいで」
その声の感覚で、互いの位置関係を把握する。
(おおよそ三十メートルってところか)
冰 も鐘崎 も同じことを考えながら距離が縮まっていく――。
「鐘崎 さん、ごめん。さっき転んじゃってさ、動けないんだ。こっちに来てくれる?」
「怪我をしてるのかい? 冰 君、大丈夫か?」
「ううん、怪我ってほどのもんじゃないんだ。転んだ拍子にここの段ボールが落っこちてきてさ、荷物に足が挟まって取れなかったけど――やっと抜けたから」
「冰 ! 上手いこと言って焦らしてんじゃねえぞ! 手ぇ焼かせてねえでツラ見せろって!」
今度は紫月 が煽る。
「しゃーねーだろ! ホントに段ボールに挟まっちゃったんだから! やっと抜けたのはいいけど、ここ狭いし自分じゃ上手く立てねえんだもんよー。この箱、手で押さえてないとまた崩れて来そうなんだよ!」
「冰 君? 狭くて自分じゃ抜け出せないってことかい?」
「そうそう! ちょっと急いで来てくんない? マジでまた崩れて来そう……」
「――そうか。じゃあ今迎えに行くからな。もうちょいそのままでがんばるんだよ?」
「うん、ありがとう鐘崎 さん! 早くしてねー」
今のやり取りで拘束の憂いが無くなったことを伝える。鐘崎 も理解したようだ。
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