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「紫月 、おそらく冰の拘束は解かれたと見て間違いない。縄か手錠か、はめられていたものが外されたんだろう」
「……じゃあ冰 君は自由に動けるってことか? どんな手を使ったんだか……」
「分からんが、冰 のことだ。また何か上手い口車に乗せたのかも知れん。だが動けない――ということは」
「行けば敵が俺たちを狙う――ということか」
「というよりも、敵と一緒になって俺たちを誘き寄せてやるとでも言ったのやも知れんな」
「つまり敵に寝返ったふりをしたってか?」
「そんなところかもな。ただし、段ボールが崩れて来そうということから――敵は確実に俺たちを待って攻撃してくるからから気をつけろということだろう。冰 が簡単に態度を翻したということは、何らかの交渉に成功して、冰 自身には憂いが無くなったことを示している」
「そっか! さすがは冰君だな」
「俺たちが近付けば敵は銃撃してくる。声の方向からすると、この先あと三十メートルほどの所に潜んでいるのは間違いない。紫月 、二手に分かれよう。俺はこのまま正面から進んで囮になる。お前は背後に回り込んでくれ」
「分かった。気をつけて行け!」
密かに紫月 はメインの通路をそれて敵の後方を目指す。外の嵐で多少の音が掻き消されるのが幸いといえた。その間、鐘崎 は敵の正確な位置を把握すべく冰 との会話を続けながらゆっくりと時間をかけて進んだ。
「冰 君ー! どこだー?」
「ここです! こっちー!」
一歩、また一歩と進む毎に互いの声が近付いてくる。と同時に、背後からやって来た紫月 が口元に指を立てて『しー、静かに!』としている姿が目に入った。敵の男二人は鐘崎 の声のする方向に神経を集中していて、紫月 には気付いていないようだ。
(冰 君! 前の二人がこっちに気付かねえように、もうちょい適当な会話を続けてくれ)
紫月 が身振り手振りと目配せでそう指示を出す。
(了解です!)
冰 は親指を立ててうなずくと、鐘崎 との会話を続けた。
「鐘崎 さん、声が近くなってきたね! そう、あとちょっと! 次の通路を右に入ってくれれば落ち合えると思うよ!」
「分かった。待ってろ、冰 君! すぐ行くよ」
残り五メートルと思える時を見計らって、
「鐘崎 さん、今です!」
そう叫ぶと同時に男たちの背後から思い切り蹴りをくれて通路へと突き飛ばした。と同時に男の握っていた銃が通路へと吹っ飛ぶ。将棋倒しになった彼らを鐘崎 の迅速な体術が襲った。
一人は即座に意識を刈り取られ、またもう一人の方は回り込んで来た紫月 によって峰打ちを食らう。ものの見事に敵二人をその場に沈めることができた。
「冰 !」
「鐘崎 さん! 紫月 さん! ありがとうございます……!」
緊張が解けたせいか、冰 はヘナヘナ、その場にペタンと座り込んでしまった。
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