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「良くやってくれた! あとは冰 だが……」
ロープは巨大な倉庫の壁半分くらいの位置まで吊り下げられていて、引き上げるには強度的に危うく、何より時間が無い。かといって冰 に飛び降りさせるには高過ぎる。加えてこの嵐だ。
「とにかく――爆弾をなんとかするっきゃねえ。俺がロープで冰 の所まで降りる!」
とはいえ、なんとか外せたとしても下へ放れば倉庫に多大な被害が出るのは確実だ。爆発の煽りで自分たちも無事ではすまないだろう。
「爆弾を切り離して海へ沈めるっきゃねえ! 冰 ! そいつは首から下げられているんだなッ!?」
「そうです……!」
首輪のように巻かれたロープから爆弾が吊られていて、冰 の腹の辺りでぶらぶらと風に揺られているらしい。かなり重さもあると見えて、嵐に揺られる度にロープが冰 の細い首を締め付けているようだ。その証拠に先程から冰 の声が掠れていて苦しそうにしている。
「……ッ、まずいな。悠長にやってりゃ冰 の首が絞まるぞ」
とするならナイフでそのロープを切り落として海へ投げ込めば、ひとまずは何とかなりそうだが問題は時間だ。こうしている間にも既に数分が経過している。
「冰 が吊り下げられた時刻から考えれば――おそらくあと五分もねえ」
どうする――。
考えている間にも一分一秒が刻々と過ぎていく。
「鐘崎 さんッ! 逃げてくださいッ! ここにいたら皆さんが危ない! 俺に構わず行ってくださいッ!」
冰 は必死に叫んでいる。彼を吊っているロープは雨風の影響でジリジリと亀裂が大きくなっている。おちおちしていれば重さに耐えられなくなって冰 が落下するだろう。
それと同時に衝撃で爆弾も爆発する――。
「……ッ! こうなったら一か八かだ……。紫月 、おめえの日本刀 で飛び降りざまに爆弾のロープを切り落とせるか? まず俺とお前をロープで繋ぐ。俺が先に冰 の所へ降りてヤツを支え、首から下がっている爆弾付きのロープを前に突き出して狙いやすいように固定する……」
鐘崎 も紫月 も命綱として互いの身体を結び、爆弾に繋がるロープを切って海へと放る。上手くいったとしても紫月 が宙吊りになる際の重力で、鐘崎 も紫月 も受ける衝撃が大きいことは容易に想像できる。ロープが身体に食い込むのはもちろんのこと、下手をすれば骨が砕けるか内臓破裂も十分に有り得る。だが爆破時刻が迫っている今、他に選択肢は無い。
「遼 、やろう。幸いにして風はめちゃくちゃ強え! 宙吊りになるタイミングで――風を使って出来る限り体重を消すようにする。おめえは冰 君を吊ってる方のロープが切れても彼を下へ落とさねえようしっかり支えてやってくれ!」
「分かった。では行くぞ――!」
春日野 が持参してきたライトで冰 の位置を照らす。
組員たちが資材庫から調達してきたロープを大急ぎで身体に巻き付けると、鐘崎 は冰 の位置を目指して壁伝いに降りて行く――。
男たちの命を賭けた必死の救出劇が始まった。
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