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一方、周の方である。
目の前の男、つまり庚予 の息子だと名乗る首謀者・庚兆 は相変わらずに銃口をこちらに向けたままでいるものの、お付きの者たちはこのまま計画を進めていいものかどうかと迷い始めている様子だ。周は彼らの良心に賭けてみることにした。
「ところで――今回お前さんと一緒にやって来たお仲間だが、今そこで起爆スイッチを手にしている二人の他には冰を拐った者が何人かいるはずだな。彼らも親父さんの組織にいた者たちか?」
見たところ年齢的には皆同じ年くらいに感じられる。だとすれば、当時はまだ成人にも満たない年頃だったろう。
銃口を構えながら男は笑った。
「そうさ! こいつらは親父の組織にいたヤツらの息子でな。今は俺の手下だ。今回のことが上手く運べば、俺は香港に帰って親父の組織を本格的に再成するつもりでいる。そうしたらこいつらも組織の幹部に取り立ててやる約束さ」
ふふんと鼻で笑った男の態度に、周は厳しくも熱い視線で彼らを見つめた。
「手下――だ? お前さん、てめえに賛同してついて来てくれた仲間を手下扱いするってのか?」
「は? それのどこが悪い! 俺は今、親父の組織を継いでるトップだぞ! それなりの報酬を弾んだ上に――しかもこの後、幹部に取り立ててやろうっていうご褒美付きだ!」
「褒美だと? 彼らは少なからずお前さんの計画に理解を示してついて来てくれた仲間に違いはなかろうが。そんな大事なヤツらを手下と呼ぶのか? 俺には到底理解できんな」
周は真顔で男を見据えながら、
「ひょっとすると十六年前の親父さんもそんな考えでいたんじゃねえのか? 仲間を仲間とも思わない。平気で手下だなどとぬかす」
だから裏切られた――。違うか?
そう言わんばかりの周に誰もがビクリと身を震わせた。庚予 の息子だという男に至っては怒りで顔から火を吹きそうな勢いでいる。
「綺麗事をぬかすな! てめえだってしっかり手下を従えてやがるじゃねえか! そこの李 と劉 、そいつらだっててめえの側近だろうが!」
「確かに――他人 はそうも呼ぶ。我々のような組織ならば側近だとか幹部だとかという役名や位置付けがあるのも事実だ。社長、専務、部長など企業にしてもそうだろう。だがな、庚兆 。俺はこの李 のことも劉 のことも手下だなどと思ったことは一度もねえ。他の者にしてもそうだ。俺の邸には執事もいるし家令と呼ばれる者たちもいる。呼び名や役名は様々だが、彼らは皆、俺の大事な仲間であり家族でもある。鐘崎 にしてもそうだ。友であり仲間であり家族も同然だ。俺たちの間には上も下もねえ。誰もが心から信頼し合える大事な仲間だ。だから――」
俺たちは互いをファミリーと言うんだぜ――。
その言葉に庚兆 の後でスイッチを手にしている男らは硬直状態で視線を震わせた。まるで雷による衝撃を食らったとでもいうように身動きできずに立ちすくんでいる。明らかに動揺が見て取れる。
それを見逃す周ではなかった。
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