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「李 ――」
(お前さんは左の男を制圧してくれ)
「はい」
「劉 ――」
(お前さんは右のヤツを頼む)
「はい」
周は言葉に出して指示はしなかったが、視線の合図だけで二人の側近たちにはその意が伝わったようだ。
「では――」
「は!」
周が立ち上がると同時に李 は左側の男を、劉 は右側の男に向かって素早く突進し、目にもくれぬ速さで拘束してのけた。庚兆 もまた、慌てる暇もなく目の前の周によって構えていた銃を蹴り上げられ、何があったか何をされたかも分からない内に気がつけば床へとねじ伏せられていた。起爆スイッチは無事に取り上げられ、銃も部屋の隅へと蹴り飛ばされる。男たちはものの見事に制圧されてしまったのだった。
「クソッ! ……どうしてッ」
「しばらくおとなしくしていてもらう」
汐留に残っている鄧浩 らに連絡を入れようとしたところ、タイミングよくか当の鄧浩 らが鐘崎 組の源次郎 らと共に駆けつけて来た。
「焔老板 ! 遅くなりました!」
「ご無事で!」
「鄧浩 ! 源次郎 殿!」
皆は既に敵の封じ込めに成功していることに驚いていたが、
「周焔 殿、ここは我々が引き受けます! どうぞ冰 さんのところへ向かわれてください!」
「すまない、源次郎 殿! では任せた」
周は椅子の下に仕掛けられた爆弾の処理を劉に託すと、李 と鄧 らを伴い急ぎ埠頭の倉庫へと向かった。
周のいたホテルから埠頭までは車で飛ばせば五分、十分の距離である。幸い、嵐の為か道はいつもよりも空いていて急ぐ道中には有り難かった。
「カネの方の現状だが――」
今現在どんな状況かを確かめたいのは山々だが、かといって闇雲に電話して鐘崎 らが窮地に陥ってもまずい。応戦中かも知れないし、ここは憚られるところだ。だが、そうこうしている間に埠頭が見えてきた。
遠目からでも社の倉庫周辺には車が数台停まっていて、壁面を照らすように煌々と夜間作業用のライトが点っているのが分かった。
「老板 、既に鐘崎 組の皆さんが集結してくださっている模様です!」
ということは、鐘崎 の方でも敵の制圧に成功したと見ていい。周はすかさず鐘崎 へと電話を入れた。
「カネ! 俺だ! もうすぐそっちに着く!」
ところが通話に出たのは春日野 だった。鐘崎 も紫月 も寸分違わぬ動きを必要とする為、スマートフォンを屋上の組員に預けて当たっているのだそうだ。
『周さん! ただいま若 は冰 さんの救出中です!』
春日野 の話によると、爆弾を首からぶら下げられた冰 が倉庫の壁面に吊るされている真只中だという。爆発までの時間が迫っている為、鐘崎 と紫月 が決死の救出作戦を決行中とのことだった。
「李 ! 急いでくれ!」
大雨の中、車は全速力で埠頭の車道を駆け抜けた。
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