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 周らが埠頭へと急いでいた――そのわずか数分前のことだ。  暴風雨に煽られる中、何とか(ひょう)の位置まで降りた鐘崎(かねさき)は、今にも気を失い掛けている(ひょう)の首にぶら下げられた爆弾のタイマーを確認。残り時間は二分を切っていた。  鐘崎(かねさき)は持ってきた防弾ベストを(ひょう)の頭から被せて万が一の時に備える。雨で全身びっしょり濡れた上にこの風に煽られて、(ひょう)の身体は氷のように冷たくなっていた。加えて首を絞める勢いの重い爆弾がより一層彼の体力を奪っている。既に気を失い掛けている上に、このままでは低体温症の危険が否めない。 「(ひょう)、あと少しの辛抱だ! 気をしっかり持つんだ!」 「鐘崎(かねさき)さん……すみませ……」  ベストを被せ終えてタイマーを見れば既に残り一分と三十秒――。と、その瞬間に(ひょう)を吊っていたロープが切れて風に舞った。 「ギリギリだったな……。(ひょう)、しっかり俺に掴まってろ! 決して手を離すなよッ!」  (ひょう)の両腕を自分の腰に巻き付けさせ、鐘崎(かねさき)自身も(ひょう)をしっかりと抱き抱える。その間にもタイマーはどんどん残り時間を減らしていく。 「紫月(しづき)! あと一分と十秒だ! ロープが見えるか!?」  (ひょう)を抱き抱えて屋上を見上げながら叫ぶ。爆弾は雨風にさらされてゆらゆらとうごめいて定まらない。  だが、紫月(しづき)からの返答は頼もしいものだった。 「ああ! はっきり見える! そのまま辛抱してくれ! 必ず斬り落とす!」  側では春日野(かすがの)ら組員たちも戦々恐々とした顔で姐さんを見つめている。 「大丈夫! 心配すんな。一分もありゃあ充分だ!」  頼もしい笑顔が嵐の闇夜に決意を携えて浮かぶ。紫月(しづき)は刃の鞘を抜くと、大きく深呼吸の後、ピタリを息を止めた。 「行くぞ!」  春日野(かすがの)ら組員たちに見守られながら鈍色の刃が空を舞う。  電光の中にくっきりとした忍のような身体がしなやかに落下していく。  鐘崎(かねさき)が突き出しているロープを目掛けて刃を振るう。  まるでスローモーションのように爆弾の四角い物体が切り離されて宙を舞い――紫月(しづき)は思い切り海を目掛けてそれを蹴り飛ばした。 「(りょう)!」  宙吊りによる衝撃に備えろという掛け声と共に鐘崎(かねさき)はギュッと(ひょう)を抱き締めて、身体中の筋肉という筋肉に力を込め、その瞬間に備える。  ――が、想像していたよりも遥かに小さな衝撃と同時に紫月(しづき)からの声が届けられた。風の力を利用して壁に足をつき、上手く体重を消したことが窺える。 「(りょう)! 大丈夫かッ!?」 「ああ! 問題ない! よくやってくれた!」  ホッとした次の瞬間、暗黒の海に真っ白な波飛沫を上げて爆弾が爆発した。  と同時に周を乗せた車が倉庫前に到着。続いて鄧浩(デェン ハァオ)の医療車もその脇に着けられる。周はすぐさま駆け降りて鐘崎(かねさき)らが吊り下がっている真下へと駆け寄った。 「カネ! 一之宮(いちのみや)ッ!」  上空を見上げれば突風に煽られ揺れている三人が闇夜に浮かび上がる。屋上の春日野(かすがの)らが少しずつロープを下へ降ろしますと叫んでいた。  それを合図に鄧浩(デェン ハァオ)が医療車からエアベッドを取り出してきては大急ぎで膨らましにかかった。三人の落下位置に置いて万が一に備えようというのだ。

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