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「皆! 先生のベッドを支えるんだ!」
誰が何を指示せずとも鐘崎 組の若い衆らがすぐに飛んできて鄧 を手伝い、皆でエアベッドを支える。
「すみません、皆さん! 助かります!」
鄧 もまた瞬時にびしょ濡れになりながら必死でベッドを膨らませる。
屋上では春日野 ら組員たちが協力して、少しずつロープを下へ下へと降ろしていく――。その脇では冰 を吊っていたロープが風に舞って右往左往と揺れている。それが宙吊りの三人を直撃しては邪魔をするが、鐘崎 がしっかりと抱き抱えてくれている為、冰 は無事のようだ。三人が下へ到着するまでの時間が千秋にも思えていた。
まずは紫月 がエアベッドへと到達し、ホッと胸を撫で下ろす。鐘崎 らは未だ地上から大分高い位置で揺られている。叩きつける雨風によって冰 を抱えている鐘崎 の腕の感覚も限界に近そうだ。既に気を失い掛けている冰 の腕は鐘崎 にしがみついている力もないわけか、命綱は鐘崎 の腕力のみにかかっている。重さ云々以前に雨で濡れた手から今にも冰 が滑り落ちそうになっているので、鐘崎 は必死で踏ん張っている様子だ。
「カネ! 冰 を放せ! 俺が下で受け止める!」
周が両腕を広げてそう叫ぶ。
確かに雨に濡れて滑る身体を抱えているのは限界に近かった。鐘崎 はもう二メートルほど降下したところで周に委ねることを決意した。
「冰 、下で氷川 が受け止める! 飛び降りられるか!?」
「……は……」
既に意識が遠のいているのか、呼び掛けるも目は虚だ。
「氷川 ! 冰 の意識が限界だッ! このまま一、二の三で手を離すぞ!」
「分かった! 必ず受け止める!」
「よし、じゃあカウントだ! 合図と同時に冰 を放す! 頼んだぞ!」
一、二の――三ッ!
冰 が亭主に向かって落下する。
下では大きく両腕を広げた周が待つ――。
ドサッという音と共に二人がエアベッドへと倒れ込むと同時に鄧浩 らが駆け登ると、そこにはしっかりと冰 を受け止めた周を確認して誰もが胸を撫で下ろした。
「白 ……龍 、ごめ……なさ」
冰 はそのまま気を失ってしまったものの、大きな外傷などは見当たらないようだ。氷のように冷えた体温を温めるべく、すぐさま担架で医療車へと運ばれていった。
鐘崎 もまた無事に降下してきて一件落着。男たちが命を賭けたギリギリの救出劇は見事に収束することができたのだった。
「カネ! 一之宮 ! すまなかった! 礼の言葉も無え……」
周は運ばれていく冰 を見やりながら深々と頭を下げた。
「なんの! とにかく無事で良かった!」
「それよかおめえも冰 君に付き添ってやれって!」
安堵の笑顔を見せながら更なる気遣いの言葉をくれる二人に、胸がいっぱいになって涙が滲むのを必死に堪える周だった。
「おめえらこそびしょ濡れだ! 車はこっちで運ぶからすぐに医療車へ行ってくれ!」
ロープによって締め付けられた内傷なども確かめねばならない。鐘崎 らの乗って来た車を李 に託して、周は二人に医療車で問診を受けてくれるよう案内したのだった。
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