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帰りの車中で濡れた服を脱ぎ、鄧浩 の診察を受けながら、周と鐘崎 、そして紫月 は今回の事件について詳しい経緯を話し合っていた。冰 は皆に見守られる中、鄧浩 によって鎮静剤を投与され、深く眠り込んでいる。その髪を愛しげに撫でながら周の表情にも安堵の色が浮かんでいた。
「――なるほどな。ヤツらはファミリー直下の組織の者たちだったってわけか」
「ああ。いわゆる表の稼業の利権争いが発端だったようだ。もしも冰の救出が間に合わずに最悪の事態となった場合、当時ヤツが体験した同じ思いを俺に味わわせることができると、そう踏んでいたようだな」
いわば身勝手極まりない逆恨みの報復だ。
「お前らの尽力が無ければ――今頃冰 は本当にあの世だっただろう」
これまでにも様々似たような逆恨みや拉致などに遭ってきたものの、さすがに今回は次元が違う。冰 のみならず鐘崎 や紫月 まで失うことになっていた可能性は多いにあるわけだ。庚兆 という男にも言い分はあるのだろうが、爆弾自体が脅しのハリボテではなく本物だったことは事実だ。
周は胸の内を口にすることはなかったが、今回の犯人たちについては当然か赦し置けるものではないだろう。直にその手であの世送りにするか――あるいは生きているのが苦痛な環境に放り込んで生き地獄を見せるか――無表情の彼の視線はそんな思いを物語っているようにも感じられた。
ところが結末は意外な形で迎えることになる。汐留に帰った一行を待っていたのは誰もが想像し得ない現実だったからだ。
◆ ◆ ◆
その少し前のことである。劉 と源次郎 によってホテルから連れ出された庚兆 らは、周の社があるツインタワー地下の一室へと連れ込まれ、そこで厳重に監視拘束されていた。
ここは普段おおよそ使われることのないスペースといえる。地下の一等深い所に位置していて、剥き出しのコンクリートに鉄格子で囲われた頑丈な檻などが設置されている階である。いわば極秘階であり、社員たちはもちろんのこと、周ら以外は誰も存在を知らない階層である。香港のファミリー拠点では珍しくもない光景だが、早い話が緊急時に捕らえた敵などを拘束しておく監獄さながらの施設なのだ。古くは拷問部屋などと言われたこともあったが、意味合い的には当たっている。この日本で表の商売をしている周にとって、起業以来一度も使うことは無かったものの、万が一の備えとして一応はそういった施設も設けられてはいたわけだ。
その檻の中に入れられた庚兆 は、劉 らに向かって自身のタブレットで埠頭倉庫の様子を確認させてくれとせがんでいた。彼の言うところの手下連中に至っては意気消沈してか檻の隅っこの方で身体を丸めてうつむいている。もう反抗しようという気力も見られないようだった。未だ力んでいるのは庚兆 唯一人だけだ。
「あんたらだって倉庫の方がどうなってるか知りたいだろうが……!」
庚兆 曰く、倉庫担当の手下たちがカメラを仕掛けていて、本来であればその現状を周に見せつけるつもりでいたらしい。
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