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邂逅1
「豪華客船でのクルーズ? うわぁ……!」
汐留の社長室では冰 が感嘆の声を上げていた。周 ファミリーや鐘崎 組とも懇意である台湾裏社会の頭領 となった楊礼偉 の襲名披露が半月後に迫っている中、当の礼偉 から台湾までのクルーズに招待されたのである。
「披露目は春節に合わせて楊 一族が所有するカジノで行われるそうだ。香港からは親父や兄貴たちと、それにカネの組にも同じく招待状が届いている」
元々春節の時期には周 の社も毎年十日ほどの連休を設けている為、今回は李 と劉 も同行できるそうだ。
「うちからは我々以外に真田 と鄧浩 が一緒に行くことになった。カネの方は一之宮 と源次郎 殿に幹部の清水 と組員の春日野 が参加するそうだぞ」
組長の僚一 は現在台湾での任務に当たっているそうで、現地にて合流するそうだ。
「香港のお父様やお兄様たちとも現地での合流になるんだね?」
「そうだ。兄貴たちの元へもクルーズの招待が届いたと聞いているからな」
「うわぁ……楽しみー! 俺、豪華客船って初めて乗るよ!」
冰 は興奮気味で頬を紅潮させている。
「式典の後はカジノでのイベントが用意されているそうだからな。冰 、お前さんにとってはそっちも楽しみのひとつだろうぜ」
「台湾のカジノかぁ! うんうん、初めてだしすごく楽しみだよー!」
「マカオからは張敏 も来るそうだ」
「わぁ! じゃあ久しぶりに皆さんとお会いできるね!」
文字通り豪華な顔ぶれに期待も最高潮だ。
楽しい春節になりそうだ――皆は半月後を待ち遠しく思うのだった。
◆ ◆ ◆
同じ頃、川崎ので鐘崎 組でも似たような会話が繰り広げられていた。
若頭専用の執務室では組番頭の源次郎 と姐の紫月 が早々と旅支度の談義に花を咲かせている。今日は珍しく鐘崎 も外回りの予定が無いと見えて、執務室で資料の整理をしながら賑やかな二人の会話に耳を傾けていた。
「持ち物はザッとこんなものですかな。若 と姐さんの日本刀も持参しておいた方がよろしいですな」
源次郎 が書き出した荷物のリストを横目に、鐘崎 が呆れ顔を見せる。
「通信機器――はいいとしても、ドローンに拳銃、防弾ベスト……それにライフルと赤外線暗視スコープ? 源 さん、これじゃまるで戦に出掛けるみてえじゃねえか」
リストには対戦用に抜かりのない武器の他に大袈裟なまでの医療具なども記載されている。周 邸と違って鐘崎 組にはお抱えの医師というのはいない。というよりも紫月 の父である一之宮飛燕 と道場に住み込んでいる綾乃木 がそれを担ってはいるのだが、今回は道場の子供たちが地区大会への出場を控えているらしく、どうしても外せずに飛燕 らは台湾行きを断念することになったのだそうだ。まあ汐留からは鄧浩 が、そして香港からは鄧海 が同行するので医者の心配はないわけだが、それにしてもある程度の常備薬などは必要と思い、源次郎 がリストに加えているのだ。
「戦とは大袈裟ですが、この程度は必要最小限ですぞ若 ! 襲名披露とはいえ各国から裏の世界のそうそうたる面々が集うわけですからな。使わないに越したことはありませんが、備えあれば憂いなしです!」
「まあ……確かに一理あるが」
それにしてもライフルまではいくらなんでも要らないだろうと呆れ顔だ。
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