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「いいのです。要は必要となった際に足りなかったでは済まされませんからな。荷物はすべて大型トラックに積み込んで参りますゆえ、念の為、車輌も各種揃えて参りますか」
準備のいい源次郎 に半ば呆れつつも、鐘崎 はやれやれと微笑ましく思うのだった。
「車輌か――。まあどのみち港までは車で行くわけだしな。楊礼偉 の披露目の後には三、四日ほど観光を楽しんでくることになっているし、トラックごと移動するんならバイクも持って行くか? 台北から南のリゾート地までツーリングってのもオツかも知れんな」
鐘崎 にしては意外なことを口走る。そういえば先日、周 と会った際にもそんな話が出たことを思い出したのだ。
「ツーリングぅー? 遼 にしちゃ珍しい発想じゃね?」
「ついこの前、氷川 とそんな話題が出てな。俺らが泊まるのは台北のホテルだが、披露目が済んじまえば正直暇ができる。観光地を回るといってもどこも人で混み合ってるだろうし、せっかくなら南の海岸辺りまで走るのもいいんじゃねえかってな。まあ縦断となればそこそこ遠距離だからな。南まで下らずとも中部辺りまでなら無理なく走れるだろうぜ」
道中にホテルを取って、一泊か二泊というのもいいんじゃないかと鐘崎 は言う。
「ほええ、楽しそうじゃねえの! 氷川 のヤツは冰 君をケツに乗せて走りてえってわけだな?」
「だろうな。俺らも久々に羽を伸ばすとするか」
「いいね、いいね! 遼 と二ケツすんのも懐かしいわなー」
「そういや以前はよく二人で二ケツしたっけな。最近は車ばかりだったし、たまにはバイクも転がしてやらんと」
「ンだな! だったら俺も運転しちゃるわ!」
「いいな。おめえの後ろなら安心だ。疲れたら代わってやろう」
「うんうん! たまにゃ亭主のケツに乗るのも醍醐味だわなー」
「しっかりしがみついてくれると尚いい」
「あっはは! 出たよ、エロ魔人」
「いや――こいつぁ、一にも二にも安全の為だ。邪 なことは考えちゃいねえぞー?」
「イヒヒヒ! そういうことにしといちゃる!」
相変わらずに仲睦まじいことである。はしゃぎ合う夫婦の会話を微笑ましげに聞きながら、早速持ち物リストに加える源次郎 であった。
それにしてもわざわざ車やバイクまで積み込んで行かずとも現地でレンタルでもすれば事足りそうに思えなくもない。というよりも、楊 家で借りることも可能だろうが、そこはそれ。使い慣れた物を持参するのも極道の常なのか。とにかくも、まさかこの大袈裟過ぎる備えが大いに役立つことになろうとは、この時の鐘崎 も紫月 も、そして当の源次郎 でさえ知る由もなかったのである。
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