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「よー、(ひょう)くーん! お邪魔するぜぃ!」 「わーい、紫月(しづき)さん! グッドタイミングですー! 今、お声を掛けようと思ってたところでした」 「マジ? へえー、こっちは俺らの部屋と左右対称になってんのな!」 「そうなんですねー。後で紫月(しづき)さんたちのお部屋も見たいなぁ」 「うんうん! 是非来てよ! 家具の位置とかが逆で、また新鮮だぜ」  嫁たちはシャンパンそっちのけで、またしても窓からの景色にへばりつき始める。そんな二人を愛しげに見やりながら、(ジォウ)鐘崎(かねさき)の旦那組はせっせとグラスに酒を注ぐ係だ。 「他の皆んなはどうしてる。源次郎(げんじろう)氏は荷物の整理か?」 「ご名答だ。そういう真田(さなだ)さんもか?」 「ああ。荷解きをする前にとりあえず茶でもと誘ったんだがな。まずは整理が先だとよ」  相変わらず律儀なことだ。鄧浩(デェン ハァオ)(リー)(リゥ)らは三人で一緒の部屋だし、清水(しみず)春日野(かすがの)も二人の同部屋だ。きっと彼らは彼らで同じように羽を伸ばしているに違いない。 「まあ慌てることはねえ。どうせメシは全員で一緒なんだし、船が動き出したら皆んなで甲板にでも出てみるか」 「そうだな」  嫁たち二人はベッドルームやバスルームなどを見て歩いては都度感嘆の声を上げるはしゃぎようだ。わざわざ隣の部屋にまで行ったり来たりと忙しなく動き回っている。(ジォウ)鐘崎(かねさき)はやれやれと肩をすくめつつも、 「あの調子じゃまだまだ落ち着かんな」 「だな。んじゃ、俺らだけで」  チン、とグラスを軽く合わせて先に一杯やっていることにしたのだった。  それから十分もした頃、 「白龍(バイロン)ー! お待たせー」 「お! もう始めちまってるじゃん!」  一通り気が済んだわけか、嫁二人がやっとのことでリビングへ戻って来たので、再び乾杯と相成った。 「で? 部屋の探索は済んだのか」 「うん! 紫月(しづき)さんたちのお部屋も見せてもらってきたー! ベッドもお風呂もすっごいゴージャスだよー! バスソルトがね、泡のいっぱい出るやつみたい!」 「そうか。じゃあ今夜は泡まみれにしてやろう」 「うはは! 白龍(バイロン)ったら」  (ジォウ)がシャンパングラスを手渡しながら自分の膝に(ひょう)を乗せる。別に見せつけるわけではないが、ごく自然にそんな仕草をした二人は普段からこの調子なのだろう。それを羨ましく思った鐘崎(かねさき)も自分の太腿をポンポンと叩いては、わずか口元をへの字にしながら『お前もここに乗れ』と目配せをしてみせた。そんな亭主が少しスネた少年のようで、つい笑みを誘われてしまう。紫月(しづき)もまた、言われた通り素直に亭主の太腿をソファ代わりに腰掛けた。 「(りょう)ぉー、俺たちも泡まみれするべな!」 「いいな。まあ、俺の楽しみは泡を流す方――だがな」 「あっは! 出たよ、エロ猛獣が!」 「流されたいだろうが」 「いんや、俺が流しちゃる!」 「いいぞ。流されちゃる!」 「あっはは!」  その時の鐘崎(かねさき)の満足そうな顔を見て、対面の(ジォウ)がクスっと笑う。当の鐘崎(かねさき)は『どうだ、仲睦まじいのはおめえらだけじゃねえぜ』とばかりに得意顔だ。 「そんじゃ乾杯といくか」 「おう!」 「乾杯ー!」  船が汽笛を上げてゆっくりと動き出す。 「あ! 出航だね!」 「おー、いよいよかぁ」  賑やかで楽しい丸二日の豪華クルーズが幕を上げたのだった。

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