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その後、一旦各自の部屋に戻ってから、ディナーの前に皆でプレイルームを見て回ることになった。ショーやステージも各所で行われるようだが、プレイルームではミニカジノやビリヤードなども楽しめるそうだ。ディナーの為にと全員ダークスーツに着替えた面々は、プールバーでビリヤードを興じることにした。
「ビリヤードってやったことないんだぁ」
冰 は物珍しげに瞳を輝かせている。プレイするのは周 に鐘崎 、紫月 が同テーブルで三人での参加。もう一台のテーブルには李 と劉 に清水 と春日野 、鄧浩 の五人が交代で興じるようだ。冰 は真田 と源次郎 と共にギャラリーに徹することにする。
隣り合った二台のテーブルに分かれてゲームが始まった。カーンという威勢のいい音を立てて、まずは周 がキューをつく。その際の仕草がどうにも男前で格好良くて、冰 はドキドキしながらゲームに釘付けになっていた。
二、三度玉突きを繰り返すと、周 も鐘崎 もスーツの上着を脱いでベスト姿になる。その出立ちがまた色香抜群で、ゲーム云々よりも彼らの玉突き姿に視線は釘付けだ。周りで見ている客たちも、さすがに間近にまでは寄って来ないものの、遠目からチラホラと視線を送ってくるのが分かる。「見て! イイ男じゃない!」「うそ、芸能人?」などの会話までもがボソボソと聞こえてくる。当の本人たちはゲームに集中していてまったく気にしていない様子だが、ギャラリーの冰 にとってはそんな視線も含めてドキドキとさせられるわけだった。
「冰 、見てろ。赤の三番をおめえの目の前のポケットに入れてやる」
周 がニヤっと不敵な笑みを浮かべながらそんなことを言う。その横では鐘崎 と紫月 が、「白い手球は冰 と言いてえわけだな?」と、冷やかしてみせる。
「ご名答だ」
白い手球――つまりは冰 のイメージカラーで周 のイメージカラーである赤をポケットへという意味だ。
鐘崎 も負けじと対抗しようとするも、悲しきかな紫月 のカラーである紫色の球というのは無い。残念そうにする亭主の横で、紫月 が笑った。
「そう気を落とすな! だったら俺が黒の八番を貰っちゃる!」
黒といえば鐘崎 のイメージとして紫月 が選んでくれたブラックダイヤを連想させるカラーだ。嬉しい嫁のひと言に、鐘崎 はたちまち満面の笑みで頬をゆるませた。
周 が宣言した赤の三番は見事に冰 の目の前のポケットへと吸い込まれた。
「うわぁ! 白龍 、すごいすごい! ホントに入った!」
パチパチパチパチと手を叩く冰 に、周 もまた満足そうだ。その後、紫月 も狙い通りの黒球をポケットへと導き、ラストの九番の球を鐘崎 が沈めてワンゲームが終了。多いに盛り上がった。
「よし、冰 。一緒にやってみるか?」
次のクールが始まると、周 が手招きして冰 を呼んだ。
「え……でも俺、やり方分かんないよ?」
「心配ねえ。俺が手取り足取り教えるさ」
周 は言うと、冰 にキューを握らせてはその背後にピタリと身体を寄せて寄り添った。
「よし、そのまま力を抜いてろ」
「う、うん」
まさに手取り足取りである。冰 はますますドキドキと心拍数を跳ね上げては、顔を真っ赤にしている。
その様子を見て鐘崎 が羨ましく思ったのは言うまでもなく――。瞳をパチパチとさせながらも、『やられた!』というような表情で口元をへの字にしているのが可笑しくて、紫月 はもちろんのこと隣の台でプレイしていた李 や清水 も思わず笑みを誘われたのだった。
「ま、ま、そうスネるなって! その分、後で泡まみれ大会、存分にやらせてやっから!」
紫月 がコソッと耳打ちすると途端に鐘崎 の機嫌は掌を返したように上向く。そんな様子も思わず微笑ましすぎて、笑い上戸の鄧浩 などは堪え切れずに声を上げて笑い転げてしまうのだった。
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