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ひとしきりゲームを堪能した後はいよいよディナータイムだ。生演奏が優雅な音楽を奏でるレストランは乗船客で混み合っていたものの、周 らスイートルームのゲスト用には半個室のように仕切られたスペースが用意されていて、人目を気にせず内輪だけでゆっくりと味わうことができた。
今夜はフレンチのフルコースだそうだ。黒服によって運ばれてくる料理はどれも絶品で、皆は楽しい会話に花を咲かせながら極上のディナーをいただいたのだった。
船はゆっくりと西へ向かっている。春節間近のこの時期は日増しに暮れるのが遅くなってはいるものの、大海原を染める夕陽は東京よりもまだ少し長めに水面を照らしている。
「今ってどの辺りを走ってるんだろ? 日が暮れるのがいつもよりちょっと遅い感じだよね」
「西へ向かっているからな。汐留よりは多少陽が長いんだろう」
冰 と周 がそんな会話をしている横で、紫月 がニュッと顔を突っ込んだ。
「ならさ、この後またちょっと甲板出てみるか? 夕陽を眺めんのもオツじゃね?」
「いいですね! 海から見る夕陽なんて滅多に見られないですもん!」
冰 も瞳を輝かせる。
「よし、じゃあ一旦部屋へ行って上っ張りを羽織って出るか」
「それがいいだろう。日暮れとなれば外はさすがに寒いだろうからな」
周 と鐘崎 の旦那組も付き合ってくれるようだ。今度は真田 や源次郎 も一緒に全員で大海原の景色を堪能することと相成った。
甲板へ出ると、プールサイドを中心にそこでも屋外のバーが開かれいて、乗船客で賑わっていた。
「一杯引っかけていくか」
食後酒と銘打って男たちはテーブルに着く。メニューにはオーソドックスなスコッチやバーボンなどのグラスから華やかなカクテルまでがよりどりみどりで、紫月 と冰 の嫁組は早速にはしゃいでいる。
「冰 君、何にする?」
「うーん、どれも綺麗な色のお酒で迷いますねぇ」
だがやはり冰 の目に止まったのは赤が美しいカクテルだったようだ。
「へへ! やっぱ冰 君はそれだよなー」
「はい、焔 色のカクテル。これにします!」
周 と鐘崎 は言わずもがなバーボンなどのグラスにするようだが、ふと、鐘崎 がメニューに気になる一品を見つけて指差した。
「お! バーボンもいいが、その前にこいつをいただいてみるかな」
彼が指差したのはバイオレットフィズというカクテルだった。
「バイオレットフィズ! 紫月 さんの紫ですね!」
冰 に指摘されて鐘崎 は得意げにうなずいてみせた。
「なら俺はこれにするべ!」
紫月 が選んだのはブラックルシアンというカクテルだ。コーヒーカルーアをウォッカで割ってある酒である。
「いいのか? おめえはもっと甘いカルーアミルクあたりが好きなんじゃねえか?」
横から鐘崎 が言うも、ブラックルシアンというブラックダイヤを連想させるカクテルを選んでくれた紫月 の気持ちが嬉しかったらしく、頬をゆるめている。
「うん! ベースはどっちもコーヒーカルーアだしな! 甘味はあるから」
紫月 はニッと笑みながらツンツンと隣の鐘崎 の肩を突いてみせる。
「可愛いことをしやがる」
公衆の面前であるから今は我慢だが、ついその頬にチュッと口づけたくなるのを抑える鐘崎 だった。
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