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それぞれ酒を堪能し、まったりと流れるひと時を楽しんでいると、船内放送でステージが始まるという案内が流れてきた。
「そろそろ部屋へ戻るか」
すっかり宵闇に包まれた空を見上げながら周 がグラスに残った酒をグビリと飲み干す。
「あ、ねえ白龍 ……」
「その前に甲板を一回りしてきていっか?」
冰 と紫月 が席を立って、二人でまた少し探索に歩きたいという顔をする。
「ああ。あまり遠くへ行くんじゃねえぞ」
「一回りしたらすぐに帰って来い」
旦那たちにそう言われて、二人は意気揚々、早速に探索へと出掛けて行った。
「まったく。まるでガキだな」
苦笑しつつもその背中を愛しげに見つめて送り出す周 らを横目に、鄧浩 と春日野 が護衛役として後をついて回りましょうと言ってくれた。
「すまんな、二人とも」
「世話をかける」
春日野 は紫月 の側付きだし、医師の鄧浩 は本人が探索にも興味があるらしいので、ここは彼らの厚意に任せることにした。
「あの様子じゃどうせ二、三十分は戻って来ねえだろう。もう一杯やるか」
周 らはそれぞれ追加の酒を頼んで待つことにする。日頃は忙しい身の彼らだ。たまにはこんなふうにゆっくりとしたひと時も悪くないと、グラスを傾け合うのだった。
「見て見て紫月 さん! 夜の海ってホントに真っ黒なんですねえ」
「だな! 吸い込まれそうだべ」
バーのあった方は賑やかだったが、反対側に回り込むと急に静かになって驚く。
「しっかしでっけえ船なぁ! 一回りするだけだって結構な距離あるな」
「ですねえ。朝、紫月 さんが言ってましたけど、ホントに街一つ分って感じですよね」
そんな話に花を咲かせながら巡っていると、視線の先に一人の青年が目に入った。キョロキョロと辺りを見回しては、何かを探して歩いているようだ。
「あら、こんなところにも誰かいる」
「ほんとだ。一人っきりで――何してんだべ」
なんだか心配そうな顔つきであちこちを見て回っている様子が奇妙に感じられる。
「落とし物でもしたんかな」
「そうですね……。何かを必死に探してるようにも見えますし」
と、その時だった。
頭上からギギっという妙な音が聞こえた気がして、冰 はふとそちらに目をやった。すると、闇夜の中から大きな白い物体が落下し掛かっているではないか――。その真下を見れば、例の青年が目に入った。
「危ないッ!」
冰 は咄嗟に青年に向かって叫ぶと共に、無意識に彼を庇うかのように走り出していた。それに気付いた紫月 が二人の頭上に落下してくる白い物体目掛けて蹴りを繰り出す。ガシャーンと大きな物音を立てて、白い物体は甲板の上へと転がった。
「冰 君! 大丈夫かッ!?」
落下物は紫月 が咄嗟に蹴り飛ばしたので二人に直撃することは免れたものの、青年を庇う際に冰 は足首を痛めてしまったようだった。
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