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「あの……お怪我は!?」
庇われた青年は驚いたようにして目を丸く剥きながらも、助けてくれた冰 に向かってそう叫んでいた。
「大丈夫です……。足を……ちょっと捻ったかも」
痛てててと冰 が顔をしかめる様子に、
「診せてください!」
青年は手際良く冰 のスラックスを捲し上げては捻っただろうその箇所を手で触った。
「やはり――捻ってしまわれたようですね。少ししたら腫れてくるかも知れませんが、骨などには異常は無いようです」
触診しながら眉をしかめ、と同時に助けてもらった礼を述べてよこした。
「申し訳ありません! 私のせいであなたにお怪我を負わせてしまいました……」
見れば端正な顔立ちをした生真面目そうな青年だ。言葉通り申し訳なさそうにして怪我の様子を気に掛けている。紫月 は一目落下物を確かめてからすぐに冰 らの元へと駆けつけた。と同時に鄧浩 と春日野 も駆け寄って来た。
「冰 さん!」
「姐さん! お怪我はッ!?」
「いや、俺は大丈夫。冰 君が足を捻っちまったみてえで」
すぐに鄧 が触診を試みたが、結果は今しがた青年が言ったのと同様で、軽く足首を捻った程度だったことにホッと胸を撫で下ろす。
「すみません! 私を庇ってこの方がお怪我を……」
鄧 は青年によって既に触診がなされていたことに驚きつつも、その的確な様子にも目を見張らされてしまった。
「――もしかして、医術の心得が?」
鄧 が青年に訊くと、彼は「はい」と言ってうなずいた。
「お医者さんでしたか」
「え、ええ。医者といってもまだ成り立ての未熟者です」
青年は謙遜したが、鄧 の目から見ればなかなかにできる医者と映ったようだ。確かに年の頃からするとまだ若く感じられるし、医者に成り立てというのは本当のところなのだろう。それにしても生真面目そうな青年だ。
「とにかく――部屋へ戻って処置を」
鄧 が冰 を抱き起こす傍らでは、紫月 が春日野 に耳打ちしていた。
「春日野 。あの落下物だが――故意に落とされたように思えるんだがな」
「故意? とすると……」
「さっきチラッと見た限りじゃ、どうもこの船の一部のようだった」
「一部というと――鉄板か何かでしょうか」
「ああ。一見、船の部品が老朽化して剥がれ落ちたと見えなくもねえが、豪華客船で事前の点検が成されてねえってのは疑わしいな。こんな人目につかねえ場所だし、もしかしたら誰かがわざとあの兄ちゃんを狙ったっていう可能性も――」
冰 らの側にいる青年を見やりながら言う。
「とにかく遼 たちを呼んで来るべ。落下物を確かめた方がいい」
「承知しました!」
春日野 はすぐさま鐘崎 と周 を呼びに飛んで行った。
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