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「――では、親父さんが開発している薬というのはデスアライブの解毒薬ということか?」  鐘崎(かねさき)の問いに暸三(りょうぞう)青年は逸ったようにしてうなずいた。 「その通りです! デスアライブ、あのような薬が未だに存在することに父は心を痛めておりました」  解毒薬については彼の父親以外にも密かに研究を試みた化学者たちがいないわけではなかったそうだ。 「ですが――なぜか皆、突然行方が分からなくなったり、研究から退いてしまったりと、あのDAに関わる医師や化学者が次々と不審な行末を辿っておりまして……。かくいう私どもも似たような状況でして、この一年の間は殆ど逃亡生活のような有り様でした」  だが、例え危うい目に遭ったとしてもあの危険薬物をのさばらせておくわけにはいかない。暸三(りょうぞう)の父は相当の覚悟の下で研究を続けてきたのだそうだ。 「――とすれば、これは性根を据えて掛からにゃならん山になる。香港の親父やカネの親父さんにも至急話を上げる必要があろう」 「ああ――そうだな」  (ジォウ)鐘崎(かねさき)は早速にそれぞれの父たちに状況を報告することにした。 「それから――お母上のことだが。今も船室に一人でおられるのなら危険だな。キミと母上には我々の部屋へ移動してもらった方が無難だろう。親父さんを捜すのはそれからだ」  鐘崎(かねさき)清水(しみず)春日野(かすがの)を護衛につけて、至急暸三(りょうぞう)の母親を迎えに行かせるよう取り計らった。彼らの部屋はここから遠く離れた二等船室だそうだ。暸三(りょうぞう)は恐縮していたが、父親に続いて母親までもが被害に遭っては当然困る。ここは鐘崎(かねさき)らの厚意に甘えるしかないと思ったようだ。 「皆さん、申し訳ありません。このようなことに巻き込んでしまって……」 「いや――。俺たちにとっても放り置けることじゃねえ。ここで会ったのも何かの縁だ。心配せずにまずはキミと母上の身の安全を確保してから親父さんの捜索に全力を尽くそう」  力強い鐘崎(かねさき)の言葉に、思わず涙腺を熱くする暸三(りょうぞう)だった。  彼が母親を連れて戻って来る間に早速捜索の準備に取り掛かるとする。 「(げん)さんはまだ甲板か。船長も一緒だろうからとにかくここへ来てもらおう」 「そうだな。乗船客の名簿と監視カメラの映像を提供してもらい、あの青年の父親を拐ったヤツらを絞り込むところからだ」  暸三(りょうぞう)と母親の為に鐘崎(かねさき)らの部屋を提供し、鐘崎(かねさき)紫月(しづき)(ジォウ)らの部屋へと移動することにした。元々ベッドは二台設えられていたので、念の為に源次郎(げんじろう)らの分として簡易ベッドを運び入れてもらい、捜索の為の本部をこの部屋に設置することとする。楽しい旅行気分は飛んでしまったものの、どちらにせよ例の危険薬物絡みとなれば悠長にしていていい問題ではない。香港のファミリーと台湾で任務中の僚一(りょういち)にも助力を仰がねばならない。のんびりとしたバカンスが一転、一同は現時点で可能な限りの戦闘体制を敷き、裏の世界に生きる者の顔へと変わっていったのだった。

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