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「しかし、あの江南 という青年一家ですが――ドイツを目指していたということは、もしかするとクラウス・ブライトナー医師のいる研究所あたりに助力を願うつもりだったのでしょうか」
鄧浩 が腕組みをしながらそんな予想を口にしている。
「ブライトナーのいる施設はドイツでも最高峰と言われているところだからな。案外それで当たりかも知れんな」
周 も同調の意を示す。
「――にしてもあの兄ちゃん、暸三 ってさ。なんとも縁のある名前っちゅーか……」
側では紫月 が苦笑まじりでいる。″暸三 ″といえば、その昔、まだ鐘崎 と一緒になる前に漠然とだが脳裏に浮かんだことのある想像の名だ。鐘崎 の父が僚一 で息子が遼二 。とくれば、もしもその鐘崎 が妻を娶って男児が生まれたとしたら″暸三 ″と命名されたりしてな――紫月 は一人でそんな想像をしたものだ。その頃の切ない気持ちを思い出すと未だに胸が痛くなる思いだが、偶然にも知り合った青年の名がその″暸三 ″だったということに不思議な縁を感じずにはいられない。しかも彼らが関わっているのは周 と鐘崎 が実際に食らったことのあるデスアライブという危険薬物となれば、これはもう運命によって導かれた縁としか思えないのだ。
まだほんの少ししか言葉を交わしてはいないが、暸三 青年は実に感じのいい若者だった。生真面目でいて顔立ちも端正な上、心根の優しそうな印象を受けた。
「そういやちょっと冰 君に感じが似てるかな」
「ああ、紫月 君もそう思いましたか? 実は私もです」
鄧浩 もあの暸三 青年に対してそんな印象を抱いたと言う。
「まあ生真面目そうな男だったのは確かだ」
「そうだな。今時珍しく素直というか、利発そうに見えたな」
周 も鐘崎 もそう言ってうなずいた。
そんな話をしていた時だ。当の暸三 が清水 と春日野 に護衛されながら無事に母親を伴って戻って来た。
「皆さん、話は息子から聞きました。ご迷惑をお掛けしてしまい恐縮です」
母親という女性がたいそう申し訳なさそうに頭を下げてよこした。――が、次の瞬間だった。その彼女が想像だにしないひと言を口にするとは、この場の誰もが知る由もなかったのである。
彼女は部屋の中央にいた鐘崎 を目にするなり、ひどく驚いた様子で大きく瞳を見開いたのだ。
「リョウ……ちゃん……?」
「え――?」
驚愕といった表情でその場に立ちすくんでいる彼女の言葉に、周 も鐘崎 も、そして紫月 や冰 ら、誰もが首を傾げながら互いを見合わせてしまった。
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